2022 Fiscal Year Research-status Report
首長墓の広域動態と埋葬人骨の諸情報に基づく古墳時代有力集団構造の再構築
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21K00952
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下垣 仁志 京都大学, 文学研究科, 教授 (70467398)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 首長墓 / 国家形成 / 人骨 / 北河内 / 古墳公共事業説 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はかなり順調に研究が進展した。特に研究成果の発表が順調だった。単著『鏡の古墳時代』では、これまでの鏡研究を国家形成論・権力資源論の視点から総括的にまとめ、最新のデータを駆使して自身の見解を一般にわかりやすく伝えることに成功した。本研究課題に直結する首長墓系譜と人骨の詳細なデータを用いて議論を展開することができ、現在進行中の課題研究の成果を首尾良く盛り込むことができた。 論文「淀川左岸域の前方後円墳」では、王権の強い関与があった北河内地域の首長墓群の動態の特性を解明し、論文「大和・河内の前方後円墳群」では列島レヴェルでの首長墓群のシステマティックな動態および推移を明晰に復元することに成功した。そして論文「古墳公共事業説批判」および「巨大古墳造営観の倫理」では、近年の巨大古墳に関してマスメディアに流布しつつある「公共事業説」の非を実証的かつ学史的に明らかにし、考古学研究を通じて軽率な非実証的研究が拡散される危険性に警鐘を鳴らした。 他方、資料の蓄積作業はそれほど進まなかった。古墳(横穴)出土人骨は9000体に達しが、集成速度が鈍ってきた。これは、基礎データがほぼ整ってきたことを意味するが、「集成」を謳う以上、効率は悪くともさらなる集成作業に力を傾注せねばならない。首長墓の広域動態についても、畿内を中心にデータ収集を進めているが、編年精度の比較的粗い畿外諸地域をどこまで扱うのか、次年度以降の方針を定めなければならない。以上から、今年度の研究は十分な進展を見たと総括できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
〔研究業績の概要〕の項目で明記したように、今年度は単著1冊(『鏡の古墳時代』)と複数の論文(「淀川左岸域の前方後円墳」「大和・河内の前方後円墳群」「古墳公共事業説批判」「巨大古墳造営観の倫理」等)を公表し、現在進行中の研究成果を発信するとともに、過去の自身の研究に節合することもできた。その点で、当初の計画をかなり上回る成果を収めたと言える。 研究の成果発信に比べ、人骨と首長墓のデータ収集と分析がそれほど進まなかった。そのため次年度は、研究の比重を、今年度の研究発信>データ収集・分析から、今年度の研究発信<データ収集・分析へと転轍する必要がある。したがって、次年度の研究発信は今年度に比べて大きく滞ることが予想される(ただし次年度中に首長墓関連の単著を執筆する予定である)。 とはいえ、人骨のデータ集成を9000体まで伸ばしたことは大きな成果と言える。このデータをさらに充実させることが次年度以降の課題となる。首長墓のデータと分析については、畿内地域の複数の小地域で分析を実施しているが、編年精度の低い地域をどこまで取り込んでゆくかが課題となる。 以上から、今年度の研究活動は、「当初の計画以上に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画をとくに変更する必要を感じない。 次年度は、4年計画の本研究の折り返し点になるので、データ修正面では、網羅的な集成活動のペースを少し下げて、データの整序に努め始めるとともに、当初に予定していた年齢・聖別・副葬品・体格・病歴との相関関係の分析に着手する必要がある。首長墓については、畿内中枢域の分析があるていど片付いたので、畿外諸地域の分析に手をつけ、畿外/畿内の差異および共通性を抽出し、古墳時代の政治社会の特質を浮き彫りにする作業を進めてゆきたい。また、首長墓に関する書籍の執筆も次年度のうちに片づけることで、研究の体系化と今後の課題の抽出作業にも従事しようと予定している。
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Research Products
(6 results)