2022 Fiscal Year Research-status Report
「特別都市建設法」の文化ポリティクスをめぐる地理学的研究
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21K01036
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
加藤 政洋 立命館大学, 文学部, 教授 (30330484)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 特別都市建設法 / 文化ポリティクス / 国際観光 / 国際文化 / 占領 / 世界恒久平和 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、先の戦争で大規模な被害を受けた日本の各都市が、戦後、連合軍が進駐し、事実上、米軍の占領下に置かれるという特異な状況を経て、いかにして都市の再建・復興を成し遂げたのかという問いを立て、当時の都市建設・復興(都市再建)に固有の理念と空間的な論理を地理学的な観点から明らかにするものである。その際、研究の眼目として着目したのが、1950年から1951年にかけて相次いで制定された、一連の「特別都市建設法」にほかならない。「首都建設法」ならびに「旧軍港都市転換法」を端緒とする一連の都市建設法は、まさに戦後復興期における都市再建の理念そのものであったと言ってよい。 占領下、一時的にであれ進駐・駐留した軍隊と日常的な接点を持つところとなった各都市において、都市建設法の制定はどのような意味をもっていたのか、そしてどのように都市は言説(表象)と空間(物的次元)の双方において(再)構築されていったのかという二点を、文化・歴史地理学の視点から問うべく、令和4年度は立法された各都市の資料を収集し、言説レヴェルの都市建設理念を明らかにした。 具体的には、首都建設法に先行して1949年8月に立法された「広島平和記念都市建設法」・「長崎国際文化都市建設法」について、現地で資料収集を実施した。これによって、被爆都市における都市建設法の立法の背景が明らかとなった。次いで、「芦屋国際文化住宅都市建設法」・「軽井沢国際親善文化観光都市建設法」に関する資料を古書店で入手し、分析を進めている。前者が「住宅」、後者が「国際親善」と、それぞれの都市形成史をふまえた建設理念を示しているところに、他都市とは異なる性格を読み取ることができる。 また、一連の都市建設法の影響の色濃く表れた沖縄県コザ市(現・沖縄市)における「国際文化観光都市」宣言の特徴を捉えるべく、関連する資料の収集を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」としたのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、計画していた現地調査を初年度にはまったく実施できず、今年度も計画を変更(縮小)せざるを得なかったためである。結果として、インドアワークを先行して進めた。まず1)英語圏を中心とした文化・社会・政治地理学における「空間の生産」と「文化ポリティクス」に関する文献を精読し、経験的な研究への展開を可能にすると思われる論点を導出した。次いで2)復興期における各都市の状況をふまえつつ、〈国際〉を謳う都市建設理念の内実を検討した。エマニュエル・カント『永遠平和のために』ならびに「日本国憲法」の前文をふまえて、制定法の意図を検討した。 今年度は、感染拡大の状況を見つつ、波の谷間に長崎と広島で資料収集を実施し、松山では景観観察を中心としたフィールドワークを行なった。また、古書店を通じて、関連する資料を入手している。その結果、ようやく長崎・広島・芦屋・軽井沢に関しては、十全に分析できる状況に至ったものの、別府・松山・松江・伊東・熱海に関しては、現地調査が必要になる。同じく、京都・奈良に関しても、資料の所在は確認できているものの、入手するには至っていない。旧コザ市に関しては、沖縄市総務部総務課市史編集担当に資料の提供を依頼しており、確実に整えることのできる見込みが立った。 成果のまとめに関しては、立法それ自体の理念と目的、法律内容にみる都市の類型化、そして紆余曲折したと思しきコザの宣言に関する論考3本の準備に取りかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに実施することのかなわなかった現地調査を実施する。まず、対象となる都市のうち、立法順に遠隔地にある都市、すなわち別府、松山、松江、伊東・熱海から順に調査と資料の収集を実施する。戦災地図、復興計画地図、復興計画・都市計画に関する書類など、比較検討が可能な公的な文書資料を中心に収集する。日常的には近傍の都市(京都・奈良)を、長期休暇を利用して遠隔都市に重点を置いた現地調査・資料収集を実施する。 公式の資料については、少なくとも夏期休暇中に目処が立つように調査を進めたい。これは、都市の復興・再建にまつわる大きな政策的枠組みを新聞記事や議事録などから把握・展望しつつ、収集した資料から立法過程の動向をクローズアップし、全体のなかに位置づける作業となる。さらに、夏期の長期休暇中にはコザ市における現地調査(資料収集を含む)を実施し、研究成果のまとめに取りかかる。 方法論的な視点としては、「国際文化観光都市」/「国際観光温泉文化都市」/その他に分類し、法律上の類型から各都市の建設理念を実態に照らして定位しつつ、先に示した論考としてまとめることとしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、計画していた現地調査を初年度にはまったく実施できず、また今年度も計画を変更(縮小)せざるを得なかったため、次年度使用額が発生する結果となってしまった。 次年度は、新型コロナウイルス感染症の影響がほとんどなくなるものと見込まれるため、これまで実施することのできなかった現地調査を授業期間外に精力的に実施し、研究を推進することとしたい。 具体的には、8月初旬に別府・松山・松江、中旬に沖縄市での調査を実施する。また、関連する資料も把握できているため、上半期で購入して取り揃えることとしたい。
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Research Products
(3 results)
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[Book] おいしい京都学2022
Author(s)
加藤 政洋、河角 直美
Total Pages
250
Publisher
ミネルヴァ書房
ISBN
978-4-623-09460-8