2023 Fiscal Year Research-status Report
Range expansion and bottom up of geography education that utilized elementary school social studies supplementary textbooks
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21K01044
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
香川 貴志 京都教育大学, 教育学部, 教授 (70214252)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 小学校社会科副読本 / 合併自治体 / 公共交通機関 / 京丹後市 / 富山市 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度に研究対象地域を一部変更(京都府の全市町村から合併自治体への変更)したこと、日程調整が困難な離島自治体の一部を研究対象から除外することにより、堅実に研究成果を導出できる方向で調査研究に励んだ1年であった。 新たに研究対象地域とした京都府内北部の京丹後市では、合併して同市が誕生する直前の各自治体教育委員会による小学校社会科副読本(以下、副読本と記す)、および合併後のすべての版の副読本を収集して、農山漁村部を多く含む合併により誕生した自治体の特徴の把握に努めた。結果、合併前の各自治体の副読本にみられたエッセンスを単に編集するのではなく、個性ある地域の集合体としての地域の強さを強調する編集がなされていることが判明した。内容は網羅的ではなく、各地域の特徴を新自治体全体での強味として意識させるよう方向付けた編集である。同時に自治体内での地域間交流促進のため、バス交通の定額運賃(200円)化政策の実施が明らかとなった。児童生徒にとっては、とくに高等学校への通学において意義ある施策である。こうした研究成果は、2024年7月7日に開催される日本地域政策学会2024年度年次大会で報告することになっている。 また、上述した京丹後市で明らかになった地域交通は、各自治体の副読本で扱われる頻度が高いため、都市内交通の充実に早期から熱心に取り組んでいる富山市を新たな研究対象地域に加え、同市の教育委員会や都市政策関係部署からの協力を得て、副読本を分析し、小学生の使用に配慮して平易な用語が使われているものの、内容的には大学学部水準に達している教材が準備されていることを突き止めた。これについては、2024年6月15日に地理科学学会2024年春季学術大会で成果発表することになっており、そのエッセンスは、一般社団法人地図情報センターの機関誌『地図情報』誌の第44巻第1号に研究成果として公表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画で予定していた離島部は、利尻島、奥尻島、青ヶ島、南大東島の4島であったが、このうち相応の研究成果を導き出せた奥尻島は補足調査だけにして、青ヶ島と南大東島はいずれか一方を省くことにした。こうした見直しは当初計画からの後退を含んでいるが、離島は交通の利便性から、小規模大学での本務(通常業務)と両立させての訪島が極めて難しい。エフォートから考えて、本務と共倒れになることを避けるため、一部の対象地域からの撤退は致し方がなかった。 しかし、その代替として、多くの自治体の副読本で取り上げられている市内交通にスポットを当て、汎用性を追求した方向を見据えることができた。その一つである富山市は、国際的にも注目されている路面電車の活性化がみられる都市であり、研究成果の一部を地図情報センターの機関誌である『地図情報』の特集記事の総論として掲載した。また、最終年度(2025年度)を待たずして、2024年6月に成果の口頭発表を予定するなど、当初予定よりも先へ進んだ取組にも成功した。 同じく京都府内の新しい研究対象地域である京丹後市では、有益な資料収集とフィールドワークを経て、その成果の中間報告を2024年7月に予定している。この点も当初計画以上に進展をみている部分である。 副読本が往々にして分厚くなってしまい、児童が消化不良を起こし易い大都市部では、人口減少社会に入ってからのインパクトが想像以上に大きい。そこで、こうした大都市部の自治体の副読本において力点が置かれている「暮らしやすい地域」や「住み続けられるまち」に着目して、従前より研究代表者が継続的に行っている分譲マンションの供給動向を絡めた研究を同時並行的に進めている。その成果は2023年度末(2024年3月)に査読論文として雑誌掲載に至ることができた。以上の情勢を総合して、進捗状況を「おおむね順調に進展」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間にわたる研究の実施を経て、最終的な研究のまとまりがおおよそ見えてきた。当初は京都府内の全ての市町村を個別に対象としていたが、前年度(2023年度)の報告にも記したように、自治体によっては資料が散逸していて、複写を含めてもなお全ての副読本を収集するのが無理であることが分かった。この代替として研究対象地域に選定したのが北部の京丹後市と南部の木津川市である。前者については本報告で既に記したとおりであるが、同じ手法を用いて木津川市で今後の研究実施を図る。木津川市は研究代表者の居住地でもあり、資料収集を手近に実施できる大きなメリットがある。 比較対象地域としての離島は、利尻島、青ヶ島または南大東島の2島を今後訪問して資料収集とフィールドワークに着手する予定である。いずれの島も観光業の他は単一産業に支えられている島嶼部であり、その特殊性は児童が他地域に関心を持つ契機として、都市部・農村部を問わず児童にとって有意義な教材となるだろう。 さらに富山市での公共交通機関を軸とした「まちづくり」を調査するうちに、現代における路面電車はSDGsを有効に働かせるために大変有用な手段であることが分かった。そこで都市内交通に焦点を当てて、とくに路面電車がみられる都市を対象とした予備的調査を札幌市、函館市、熊本市、鹿児島市などで進めている。これは今後の永続的な社会の構築に向けて、極めて社会的要請が高い都市研究に発展すると考えられる。これらの都市の一部では副読本を入手済みである。今後も欲張らない範囲で予備調査を継続し、次なる申請を視野に入れつつ準備につなげていきたい。 全体を総括しての研究成果の発表を今年度から徐々に始め、研究のまとめと並行させて成果公表を論文等で世に問う計画を立てている。副読本研究の系譜についても、研究成果が散発的であるのが実情なので、その整理や体系化に挑みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
冗費の節や鵜を不断に続けていることに加えて、当初予定していた副読本購入費や複写費が各自治体の教育委員会のご厚意により殆どかかっていない。また、旅費が嵩む離島での調査に着手できていない(本務の予定と調整できる期間に交通機関や宿舎の予約ができない等)ため、それに要する旅費支出がない。 上記のような状況があるとはいえ、今後訪問する自治体で副読本や複写費が無償になる確証は持てず、そのための経費は一定額を留保しておく必要がある。今年度以降は、成果発表のための出張旅費、離島調査のための旅費、補足調査旅費が必要であるため、これらの経費を準備しておく必要がある。専門雑誌への投稿の際には英文要旨の校閲のための費用も必要である。
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