2023 Fiscal Year Research-status Report
EBPMに向けた地域格差問題と地方圏における人口移動に関する研究
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21K01047
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
豊田 哲也 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (30260615)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥嶋 政嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (20345797)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 人口移動 / 地方創生 / EBPM / 居住地選好 / Uターン / 地域格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
地方圏における人口減少を緩和するための政策として、域外への人口流出の抑制と人口回帰の促進を図ることが重要である。本研究では、2020年に「徳島県出身者のライフステージと居住地についてのアンケート調査」を実施した。初職時における県内残留行動と県外で就職した後のUターン行動について、賃金格差仮説、就業機会格差仮説、親の持家仮説を男女別に検証したところ、男女ともに親の持家仮説が支持された。実家居住によって得られる生活コストの軽減が、こうした行動の誘因になると考えられる。Uターンに関係する要因の分析結果からは、男性、1960年代生まれの世代、配偶者なしの属性で帰県率が高いこと、県外で最終卒業した県外就職者は帰県率が低いことが示された。また、出身地から初職地の地理的距離が大きいほど帰県率は低下すること、帰県者では初職地との給与格差に対応して出身市町村へのUターンの可能性が高くなることが示唆された。 こうした結果をふまえ、対象者を全国の地方圏に拡大し、2023年3月に2回目のアンケート調査を実施した。地方圏出身の回答者のうち、43%が進学や初職時に県外に転出し、その約半数がUターンしていることが推定される。現在の居住環境に関しUターン者の評価が高いのは、自然環境、人間関係、生活費用などであった。個人の主観的幸福感は、大都市圏および九州・沖縄地方でやや高く、東北と北陸地方で低い。幸福感との相関が最も高い要素は「人間関係の心地よさ」であり、社会関係資本の重要性が示されている。また、個人年収を比較すると、男で大卒の帰県者は非帰県者より低いが、一貫して出身県に住む定住者より有意に高い。さらに、階層帰属意識の分析から、帰県者は定住者より自己評価が高いことが指摘できる。これらの知見から、地方圏における人口減少緩和策のアピールポイントを、EBPMの観点から評価検討することができよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題研究は、徳島県が総務省の支援を受けて取り組むEBPM推進事業と連携しておこなうものである。2023年度は全国学会における発表4件をおこない、投稿論文2件が公刊された。また、徳島県が設置するEBPM研究会において分析経過を討議し、ニュースレターの発行や職員研修の機会を通じ成果の還元につとめている。人口移動の経済的・社会的要因に関するいくつかの仮説を検証するため、2022年度と2023年度の予算を使って、全国の都道府県を対象とするインターネット・アンケート調査を企画実施した。その結果について分析をおこなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年に実施したアンケート調査の分析に継続して取り組み、学会発表や論文投稿をおこなう。これまで、地方圏出身者の居住地移動の要因は、就業機会や所得水準の地域格差から説明されることが多かったが、親の持ち家の有無、家族や地域の人間関係、ライフスタイルや価値観など社会的要因がUターン行動に大きな影響を及ぼすことがわかってきた。今後は、こうした説明を経済学、地理学、地域計画学、社会学、心理学などの理論に結びつけるとともに、データに基づく政策立案に向けた基礎資料を示したい。
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