2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K01075
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
葉山 茂 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (60592780)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 遠洋漁業 / 出稼ぎ / 漁業 / ニシン漁出稼ぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人びとが地域社会に住み続ける選択がどのように実践されてきたのかについて、漁業集落を対象として、漁業者およびその家族にライフヒストリーの聞き取り調査を中心に調査を行い、分析することを目的としている。しかしながら令和3年度は大学の所在地、および調査地の両方において、新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、調査対象者の協力を得ることが困難な状況が続き、上記の課題について聞き取りをすることは困難な状況になった。したがって、本課題の中核となる研究手法が実践できない状況となり、聞き取りによる調査結果を得ることはできなかった。 そこで以前の調査のなかで明らかになっている野辺地漁業者の出稼ぎ先および就労先について、1950年代まで盛んであったニシン漁、および1950年代から80年代にかけて盛んであった北洋漁業や南氷洋捕鯨漁業などの遠洋漁業に関する資料を集め、野辺地の漁業者が経験した戦後の大型漁業の歴史的背景に関する文献調査を中心に、調査を実施した。 青森県からの出稼ぎは戦前から戦後1950年代までは北海道での漁業、林業、農業などの出稼ぎが多く、1960年代から東京などの都市での出稼ぎが多くなっていることはこれまでの先行研究でも明らかである。青森という場所から北海道をみたとき、北海道開拓が本州の富豪の投資によりアイヌ民族を労働力として発展し、労働力の不足を補う形で青森、秋田等の北東北の住民が労働者として渡っている。つまり野辺地を含む青森県は、北海道の労働力供給地と位置付けられたとも理解でき、そのなかで青森県の人びとが近現代を経験してきたと理解することができる。 こうした社会状況をどのように経験し、それをどのように語るかが本研究の課題であるが、現状ではその点を明らかにする調査が新型コロナウイルスの感染拡大により進められていない状況にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、聞き取り調査など、対面による調査、および参与観察調査により、課題を明らかにすることを研究の手法としている。しかし大学の所在地、および調査地である野辺地の双方の地域において、時期を違えながら新型コロナウイルスの感染拡大が起きた。そのため、対面による調査について、調査対象者から了解を得ることが難しく、聞き取り調査が難航した。加えて、野辺地の人びとの出稼ぎ先である地域についても、新型コロナウイルスの感染拡大により訪問の予定が立たず、調査を行うことが困難であった。以上の状況により、本研究は大幅に遅れることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は新型コロナウイルスの蔓延等防止措置の緩和などにより、対面の調査がしやすい環境が生じている。こうした状況を活用しながら、調査を推進する。 本研究では、以下4点の課題を挙げている。①漁業者を対象に地域での生活の成り立たせ方を具体的な事例を収集し、10の事例から地域における男性の就業やライフコースを抽出し、世代間の経験の違いを検討する。②女性のライフヒストリーを収集し地域に残り生活を維持してきた女性の役割を検討する。また③アクション・リサーチの手法を導入し地域の社会教育機関と協力し、個別の経験を共有し語る場を構築し、継続的に調査成果を公開しレスポンスを得られる体制を整える。④研究成果を地域で活用可能な形で還元するための情報の集積・提供の手法を検討する。 以上の4点のうち、①と②については新型コロナウイルスの感染拡大が収まる時期に集中的な調査を行うことで進捗の遅れを取り戻すことが可能と考える。一方、③については、集会などの催しをすることが厳しい状況にあり、野辺地公民館においても令和3年度はほとんどの行事が取り止められてきたことを鑑みると、地域全体で地域誌・地域史を共有することは困難な状況にあると考えられる。そこで、①および②について小さな成果物を印刷等により積み重ね、内容を可視化し、必要に応じて配布するなどの手段により、地域に共有する方法を検討したい。編集・配布にあたっては、印刷物になり可視化されるものが増えるため、プライバシー、諸権利に関してより注意を払い、実施していくことが必要である。④については、調査結果を野辺地資料館の展示に反映するなどの方法で、③とも関連させながら、双方向性のコミュニケーションの方法を検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い調査計画が立たず、調査旅費の使用が困難であったことが主要な原因である。本研究の中核を成すのは、聞き取り等の対面調査であり、新型コロナの感染拡大により、調査自体が困難な状況にあった。また調査の進展に伴って活用する予定であった物品費、人件費・謝金、その他の予算についても、令和3年度は調査が文献調査に限られ、聞き取りによる新たな調査データを得られないことから、データを処理する段階で活用する予算の執行が滞ることとなった。 本年度は新型コロナウイルスの蔓延等防止措置が大幅に緩和されていることから、調査旅費に関しては、早めの執行を心掛け、課題の研究が進展するように取り組みたい。また、本研究ではデータを活用した市民と研究者による双方向性のコミュニケーションによる地域文化へのアプローチを想定しているが、この点も今後の新型コロナウイルスの感染動向によっては実施困難になることも予想されることから、小冊子等による可視化を試みることにより、予算を活用し、研究の深化に活用する。
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