2022 Fiscal Year Research-status Report
明治時代以降の国内各地の島々における移住者の社会の形成と祭や芸能の伝承の研究
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21K01094
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
笹原 亮二 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 教授 (90290923)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 島 / 移住 / 民俗芸能 / 祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度も新型コロナウイルス感染症が収束しなかったため、本研究の対象となる北海道周辺の島々・大東諸島・小笠原諸島・種子島について、それぞれの地域が属する都道県の図書館・資料館等での資料調査や現地調査を行うことができなかった。そこで、これまで収集した全国各地の島々に関する文献や近隣の図書館が所蔵する図書、各地の図書館から取り寄せた文献や図書等をもとに、それぞれの地域における明治~戦後の他地域からの人々の移住・定住と地域社会の形成の様相について、特に卓越した経済力や権力や権威をもってそれらの地域の開拓とその後の経営を主導した資本家や国家等の動向と地域社会との関係に焦点を当てて、具体的な把握を試みた。その結果、北海道周辺の島々においては、商人や資本家が営む鰊漁への出稼ぎに一元的に依存して生計を立てる人々の移住・定住によって、大東諸島では特定の個人や企業が経営する甘蔗のプランテーションや燐鉱採掘で働く労働者の移住・定住によって、小笠原諸島では世界各地を出自とする人々の居住地に対する日本の占領の一環としての人々の移住・定住によって、それぞれの地域社会の形成が進行した。従って各地では、資本家や国家等の開拓・経営の主体の盛衰に多大な影響を受けざるをえなかったことに加え、食料の自給率が低かったこと等の理由から、一定の自立性を有する地域社会を形成し、安定的に維持することが困難であったという共通点が窺えた。一方種子島はやや異なり、被災者の同島への集団移住を主導・斡旋したのは県当局であったが、移住先の開拓や経営は移住した人々によって主体的に行われていた。種子島が他の地域に比べ、一定の自立性を有した地域社会が形成され、その後も比較的安定的に維持されたことや、移住元と関わりが深い芸能や祭の伝承が比較的多くみられたことは、両者の移住・定住と地域社会の形成の経緯の違いが影響している可能性が看取できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和4年度は、新型コロナウイルス感染症の流行が収束しなかったため、本研究が対象とする北海道周辺の島々・東京都小笠原諸島・鹿児島県種子島・沖縄県大東諸島等について、予定していたそれらの地域の都道府県の図書館・資料館等における文献や映像等の資料調査、各々の地域における現地調査や様々な情報収集等を行うことができなかった。そこで、これまで行った全国各地の島々に関する調査で収集した、本調査に関連する先行研究や調査報告等の文献資料、近隣の図書館が所蔵する関連図書や文献、各地の図書館から取り寄せた関連図書や文献等をもとに、それぞれの地域における明治~戦後の人々の移住・定住と地域社会の形成の様相について、それらの地域の開拓と経営を主導した資本家や国家等の動向との関係に焦点を当てて把握を試みた。しかし、既収集の文献資料や近隣の図書館等には、それぞれの地域に関する地方史(誌)類や民俗誌等の基本図書、地域の民俗学や歴史学の研究団体の機関誌、地域の博物館や資料館等の研究機関の研究誌等の資料の所在は十分ではなく、また、関連図書や文献の取り寄せも、現地の図書館・資料館等での調査・閲覧に比べて必要な資料の収集は限定的にならざるを得ず、その結果、それぞれの地域の移住・定住や地域社会の形成の様相に関する把握は大枠の把握に止まることを余儀なくされた。従って、今後、これまで十分には行えなかったそれぞれの地域の図書館・資料館等における関連図書や文献等の資料調査を積極的に進めるとともに、それぞれの地域の島々における現地調査を並行して実施して十分な量の各種の関連情報を収集し、それぞれの地域の移住・定住や地域社会の形成の様相の理解や把握の深化・充実を急ぐ必要があるという課題が残された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が主たる対象とする北海道周辺の島々・東京都小笠原諸島・鹿児島県種子島・沖縄県大東諸島における明治以降の人々の移住と地域社会の形成や、芸能や祭の創始や伝承について、関連する各種資料を所蔵する北海道・東京・沖縄・鹿児島等の各地の図書館・資料館等における文献・映像等の資料調査や、それぞれの地域に関する研究について、様々な図書や文献等の情報の収集を積極的に行う。また、それらの資料調査や情報収集の成果を踏まえつつ、本研究が対象とするそれぞれの地域において、現地調査を並行して進める。そうした資料調査・情報収集・現地調査の実施を通じて、令和4年度までの研究の遅れを取り戻すとともに、それぞれの地域の様相の理解や把握の深化・充実を図る。 但し、こうした調査や情報収集は、各地の図書館・資料館や島々等の現地に実際に足を運ぶ必要があるが、今後、新型コロナウイルス感染症が再流行した場合は、それらの地域に赴くことを断念せざるを得ない。特に、本研究の対象となる規模の小さな島々に関しては、医療資源が脆弱で、感染症の予防や発症に対処する能力が十分とはいえないこと等を考慮すると、現地調査の実施の判断については一層慎重に行う必要がある。現段階では同感染症の再流行の可能性は必ずしも高くないものの、今後の研究の遂行にあたっては、そのあたりの事情を十分踏まえた上で進めたい。
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Causes of Carryover |
令和4年度は前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の流行の収束が不十分であったため、予定していた本研究の主たる対象となる北海道周辺の島々・小笠原諸島・種子島・大東諸島等が属する都道県の図書館・資料館等における文献等の資料調査や情報収集、各地の島々における現地調査を行うことができなかった。従って、これらの資料調査・情報収集・現地調査に関わる旅費・資料の複写代等の経費を使用することがなかったために、次年度使用額が生じた。令和5年度は、当初の研究計画でこの年度に予定していた各地の現地調査・情報収集・資料調査と併せて、令和4年度までに予定しつつも実施できなかった各地の図書館・資料館等での資料調査・情報収集や島々での現地調査を次年度使用額等も活用して進め、本調査のより効率的な遂行と一層の充実を図る。特に、昨年度までの調査によれば、北海道周辺の島々・小笠原諸島・大東諸島の各地における芸能や祭に関しては、市町村史(誌)や調査報告書といった公的・学術的な著作物よりも、それぞれの地域に暮らした人々が自らの生活の経験を記した回顧録等の個人的な著作物のほうが、本研究に関連する内容が多く含まれることが判明した。従って、そうした著作物の所蔵が充実している現地の図書館・資料館等における図書や文献等の資料調査については、十分な予算を充当して、資料の調査や収集に極力遺漏が生じないように進めたい。
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