2021 Fiscal Year Research-status Report
The Role of Freed Slaves in Roman Law of Contract
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21K01114
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
五十君 麻里子 九州大学, 法学研究院, 教授 (30284384)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 解放奴隷 / ローマ法 / ユスタ事件 / 信託遺贈 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「庶民」の多くを占める解放奴隷に焦点を当て、これまでのネガティブな元主人・解放奴隷関係にとらわれず、古代ローマの法実態の中で解放奴隷が果たした役割を明らかにしようとする試みとである。申請時には、その主な史料として『学説彙纂』、対象となる分野を契約法として想定していたが、1948年に公刊されたいわゆる「ユスタ事件」(TH13-30)が解放奴隷の娘の被扶養権をめぐる事件の記録だったのではないかとの仮説を立て、解放奴隷の法実体を現す具体的例として、集中的に研究した。 ユスタ事件は従来、ユスタが自らの身分をめぐって母の元主人の寡婦テミスと争う事件と理解され、ユスタを「生来自由人である」と主張する証言はユスタ側の、「解放奴隷である」と主張する証言はテミス側の証言と分類されて、テミスの婦女後見人であったテレスフォルスが「ユスタ側の」証人となるなどドラマチックな事件として多くの興味をひいてきた。しかし申請者は、ユスタは、母の元主人ステファヌスの死後も従来の扶養を求めて、ステファヌスの信託遺贈の受益者である解放奴隷にあたるとして争っているものではないか、と考え、D.34,1,16,1と比較して事件を再構成し、全ての証言がテミス側の主張を裏付けるものであることを明らかにした。 このような見方はこれまでのユスタ事件理解を覆す画期的なものであり、英語でその概要を公刊するとともに、これをもとに国際的な意見交換を喚起して、ローマ法分野では最高峰のサヴィニー雑誌への掲載を目指しドイツ語で論文を完成した。これと並行して国内でもこのテーマで学会報告を行い、極めて高い評価を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた『学説彙纂』を中心とした「契約法」に関する研究は進んでいないが、70年近く謎のままとなっていたユスタ事件の法的紛争の内容を、世界で初めて明らかにする試みに成功しており、計画以上の成果を挙げていると言って良い。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年4月現在ユスタ事件に関するドイツ語論文"pro Calatoria Themide. Prozess der Iusta und Lebensbedingungen der Freigelassenen"をZeitschrift der Savigny-Stiftung fuer Rechtsgeschichte: Romanisitsche Abteilung"の編者の一人であるWolfgang Kaiser教授に提出済みであり、今後言語チェックや査読の作業に入って、2023年号への掲載を目指すこととなる。 他方で、当初の計画に戻り、『学説彙纂』のとりわけ契約法分野の分析も併せて行いたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響で、2020年度終了の基盤研究(C)・18K01219の繰越金が生じていたことと、2021年度も予定していた国際学会での報告や研究調査に係る海外出張が不可能となったため、状況改善後の出張を計画することとし、予算の一部を次年度に使用することとした。
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