2021 Fiscal Year Research-status Report
Preventing international tax avoidance and tax treaty beneficial ownership -Considering issues related to income attribution -
Project/Area Number |
21K01135
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
阿部 雪子 中央大学, 商学部, 教授 (50299814)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 国際的租税回避 / 受益者要件 / OECDモデル租税条約 / OECDモデル租税条約コメンタリー / トリーティショッピング / LOB条項 / 所得の人的帰属 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、租税条約における特典条項の濫用を目的とするいわゆる条約漁り(トリーティショッピング:treaty shopping)が国際的に大きな問題となっている。その対抗策として、OECDは受益者要件や特典制限条項(Limitation on Benefits:LOB)をOECDモデル租税条約に導入しているが、他方でその機能や適用範囲が明確でないことから各国において紛争が生じている。わが国においても受益者要件やLOB条項は、その機能や解釈について明確な議論がなされているとは言い難く、今後、同様の争訟が生ずることが予想される。 本研究は、受益者要件やLOB条項の機能や適用範囲について、国際的租税回避の防止の観点から明らかにすることを目的とする。そのために、OECDモデル租税条約及びコメンタリーに受益者要件が導入された歴史的経緯を考察し、どのような趣旨で受益者概念が創設されたのかを明確にする。また、受益者概念をどのように定義すべきか、受益者要件やLOB条項はどのような機能を有するものであるのかを明らかにする。締約国における租税条約上、受益者要件が置かれていない場合も黙示的に有るものとして解釈することが可能であるのかについても探求する。さらに、受益者の認定は法的基準により判断すべきか、経済的実質により判断すべきであるのかという解釈上の問題の解明をも目的とする。 2021年度は、租税条約10条の配当に係る受益者要件が創設されたその趣旨を導出するために、OECDモデル租税条約コメンタリーの草案段階から分析し、その問題を明らかにした。また、受益者要件は、所得の人的帰属のアプローチが基底にあることを解明し、かかる所得の人的帰属の観点から、2019年のイタリア最高裁日本年金事件判決を手掛かりとして、イタリア国内法上の受益者の定義及び当該要件の解釈上の問題を探求し、有益な知見を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、イタリア、スイスという諸外国の最高裁判例を通して、受益者をどのように定義すべきか、また当該条約に受益者要件が置かれていない場合も、黙示的に当該要件が置かれているものとして解釈することができるか否か、受益者要件は租税条約上、どのような趣旨ないし機能を有するものであるのかという問題を、所得の人的帰属のアプローチから分析し、一定の所見を得ることができた。また、これらの論点については、定例の研究会に参加し、学識者・実務家とも意見交換を行い、有益なコメントを得ることができた。その成果は、「租税条約における所得の人的帰属と受益者要件ーイタリア最高裁日本年金基金事件判決(IT Corte di Cassazione,30.Sept.2019,Decision No.24287)を検討して-」というテーマで記念論文集(中央経済社、2022年3月公刊)に収録することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、引き続き受益者要件の解釈問題として、租税条約上の受益者に当たるか否かの認定において法的基準により判断すべきか、それとも経済的実質により判断すべきかといった論点をスイスやカナダ等の国外の裁判例を手掛かりに検討し、解明したい。また、トリーティ・ショッピングへの対抗策として、受益者要件とLOB条項の適用範囲が交錯する場面があることから、それらの機能と適用範囲を明らかにすることをも目的としている。国際租税研究協会(International Fiscal Association:IFA)では、2019年度において受益者要件が議論されたことから本研究は、国外でも関心の高いテーマであり、今後も論議されることが予想されるため、学会、研究会に参加し、研究を深化させたい。
|
Causes of Carryover |
2021年度は、国内外の学会・研究会の多くがリモートにて開催されたため、旅費の見積額に残余が生じた。その残余については、次年度の学会等の旅費に充当するとともに、書籍等の購入に充てる予定である。
|