2022 Fiscal Year Research-status Report
Preventing international tax avoidance and tax treaty beneficial ownership -Considering issues related to income attribution -
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21K01135
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
阿部 雪子 中央大学, 商学部, 教授 (50299814)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 夫婦財産制 / 課税単位 / 所得の人的帰属 / 財産の帰属 |
Outline of Annual Research Achievements |
受益者要件を検討するにあたり「所得の帰属(attribution of income)」のアプローチは、極めて重要な論点である。誰に財産が帰属するのかという問題は所得の帰属の観点から重要な意味をなすのであり、その点で本年度は国境を越える人、財の移動をめぐる課税理論について国際相続(婚姻・離婚・相続)の出来事に着目し、租税回避の問題を視野に入れつつ考察を行った。その背景として、わが国では社会経済・文化活動のグローバル化にともない国際的な人的交流が進展し、外国人がわが国で就労することや日本人が海外に赴任するケースも少なくない。こうした国際化・情報化のなかにあって、わが国においても国際結婚が進みつつあり婚姻、離婚、相続に起因して婚姻中に蓄積した夫婦財産に加えて婚姻前に稼得した特有財産及び国外で構築した夫婦共有財産等の把握、納税義務者、課税方法がより重要な問題となるのである。 わが国の夫婦財産制は、婚姻中の収入を含めて夫婦の各々にその権利が認められている別産制が採用されているが、米国では州によって財産制が異なり、古くから夫婦別産制と共有財産制が併存していることから、従来、相続・贈与等の課税上の取扱いが重要な課題として論議されてきた。そのため本研究では、夫婦間の財産の移転に着目し、夫婦財産制の相違から生じうる相続税、贈与税の課税理論を財産の帰属、納税義務者などの観点から比較法的に考察を行った。結論として、夫婦財産制の相違によって同一の経済状況にあるにもかかわらず納税義務が生ずる場合と、そうでない場合があり得ることを解明した。また国際結婚(婚姻・離婚・相続)にかかわる課税理論の研究成果として(ⅰ) 個人単位主義、(ⅱ)夫婦単位主義、(ⅲ) それらのうちのいずれかの選択制といった課税単位の考え方が夫婦間の財産の移転に係る課税上の取扱いに重要な影響を及ぼしうるという知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、受益者条項における所得の帰属のアプローチに関連して、国際結婚にかかわる婚姻、離婚、相続に起因して、夫婦間の財産の帰属に着目し、相続税及び贈与税の課税理論について考察を行った。そこでは、夫婦財産制の相違により相続税・贈与税の課税関係にどのような税負担の影響が生じ得るのかという問題の検討を、研究者・実務家との共同研究を通じて遂行することができた。本共同研究では、国際結婚を想定し、国境を越えた財産の移転に係るわが国の相続税、贈与税の課税上の取扱いを、米国の連邦遺産税・贈与税の課税理論との比較法的考察を通じて、学識者と意見交換を行いながら進展させることができた。この研究成果は、「国際結婚(婚姻・離婚・相続)をめぐる課税関係」(『国境を越える人・財の移動と相続税・贈与税』)日税研論集83号(2023年)に収録することができた。 また、所得の帰属の問題につき、資産の所有権者と当該資産から生ずる収益の法律上(私法上)の権利者とが分離している場合の裁判例を、オランダや米国などの事例を参照しつつ考察し、結論として2つの異なる解釈が成り立ち得ることを明らかにした。なお、本研究成果は、雑誌(新・判例解説Watch(2023年、日本評論社)、TKCローライブラリー(2022年12月2日Web)に掲載することができた。 空中権の移転に係る財産の帰属の問題に関連して、2022年11月24日開催の日本不動産学会シンポジウムにおいて、コーディネーターとして「都市再生に余剰容積率移転はどう貢献できるか」をテーマに税法の観点から個別報告及び研究者等によるパネルディスカッションを不動産学、行政法、法と経済学、税法の見地から行うことができた。本シンポジウムの研究成果として、日本不動産学会誌(2023年3月)、中央大学経理研究(2022年12月)に寄稿することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、米国に渡航し、国内で入手できない議会資料等の文献を収集し、租税条約上の受益者要件の検討を進める予定である。また昨年度、租税判例研究会において所得の帰属が問われた事例を検討した成果として、雑誌(ジュリスト)に寄稿する予定である。なお、2023年度は最終年度でもあるため、2年間の研究成果を踏まえて論文の執筆作業を進めていく予定である。 年次開催予定の租税法学会、日本税法学会のみならず定例の国際取引法学会(金融税制部会・知的財産法制部会)、法務省租税判例研究会等にも定期的に参加し、研究者・実務家などの学識者と意見交換を行いながら研究を深化させたい。また、2023年9月に開催される予定の国際取引法学会(中間報告会)において、国際的租税回避の観点から租税条約上の論点について米国の裁判例などを踏まえて報告する予定である。この研究成果については、学会誌や中央大学紀要への論文発表により適宜行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度は、依然としてコロナ感染症の影響もあり、国外渡航への懸念材料もあったことから国外への渡航を控えたこと、また国内において参加予定の学会に関しても多くが対面形式兼リモートでのハイブリッド形式の開催であったことから、大幅に旅費等の支出が抑えられ、次年度使用額が生ずることとなった。当該未使用額については2023年度の国外旅費、海外の文献購入費、学会参加費などに充てる予定である。
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