2021 Fiscal Year Research-status Report
リスク社会における国家賠償制度の再定位―民事不法行為法との共進化
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21K01140
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
米田 雅宏 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (00377376)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国家賠償法 / 安全配慮義務 / 危険管理責任 / リスク社会 / 職務義務違反説 / 動的システム論 / 民事不法行為法 |
Outline of Annual Research Achievements |
原発訴訟や建設アスベスト訴訟など、近時、行政庁の規制権限の不行使に対し国賠責任を認める裁判判決が相次いで出されているが、いわゆる危険管理責任について注目が集まった70年代の問題状況との違いとして、リスク社会の進展を挙げることができる。研究1年目では、不確実で予測が困難なリスク社会において国家活動が現に果たしている機能(潜在的危険創出機能)や、高度の専門的知見を有する私人の危険支配領域の広さを踏まえ、《法令上の特定の規制権限の存在を前提に、その不行使の裁量の逸脱濫用を問う》という従来の違法判断の枠組みが、紛争の実態を充分に反映しているかどうかを問い直す作業を行った。その作業の一つとして、危険管理責任が問われた事例の中から「作為起因型」の類型を抽出し、結果、安全配慮義務違反の事例と共通点があることを明らかにした。従来、安全配慮義務は主として雇用契約上の義務と理解されてきたが、近時「信頼を基礎とした安全配慮義務」として不法行為法の領域にも移調し始めている。《安全配慮義務の成立要件と裁量権の逸脱濫用の要件は実質的に同じ》という民法学者の見解も踏まえると、安全配慮義務の不法行為法領域への移調現象は、危険管理責任の問題についても、法令に準拠した違法判断ではなく「信頼を基礎とした安全配慮義務」違反を問う可能性を示すものであり、国賠違法概念について原理的な省察を要請しているとみることができるのではないか。以上が、本年度の研究の差し当たりの結論である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1年目の計画としては、危険管理責任・安全配慮義務に関する文献を収集するほか、個々の判例の中で取り上げられている法令の逐条解説・判例評釈、また安全配慮義務は土地工作物責任や製造物責任との構造的類似性も認められることから、いわゆる特殊不法行為法に関する関連文献についても網羅的に収集・分析することを想定していた。現在、その作業は順調に進んでいる。また研究1年目において、本研究課題の中間的総括として、米田雅宏「危険管理責任の再定位(上)(下)――義務違反構成の試み」法律時報 93巻12号(2021)130頁以下、94巻1号(2022)121頁以下も公表することができた。以上により、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目は、ドイツの不法行為法理論である「社会生活上の義務」について調査・検討を行うことを通じて、国賠法との接続可能性並びにその限界について明らかにする予定である。わが国でしばしば参照国とされるドイツでは、過失責任主義を採用しつつも、無過失責任の一類型である危険責任がこれを補完するという現象が古くから認められていたが、今日その補完的役割の多くを「社会生活上の義務」が果たしている。特に近年「社会生活上の義務」は、生成期よりもその射程範囲を大きく広げ、国賠法の領域でも応用可能な展開を見せている。そこで今後は、「社会生活上の義務」の規律構造を、同義務の、不法行為法全体における位置づけを意識しながら明らかにしたい。その上で、「社会生活上の義務」がわが国の公務員の職務義務の具体化にとって、果たして、またどの程度、参照に値するかについて、危険責任としての共通性や公法私法の区別に意を払いつつ検討を加えることにしたい。
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Research Products
(8 results)