2021 Fiscal Year Research-status Report
自殺抑止の公法理論ー自殺類型論を媒介とした教育・法制度の枠組み構築
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21K01149
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
福島 涼史 長崎県立大学, 国際社会学部, 准教授 (70581221)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自殺防止 / 自殺予防 / エミール・デュルケム / カール・シュミット / 自己決定権 / 生命権 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まず、デュルケムの『自殺論』を精読することから研究に着手し、合わせて古典的な経済思想の学説に触れ、各自殺類型と経済情勢・社会風潮の関係の把握を深化させた。特に、フロムの『自由からの逃走』でややもすれば、ギルド的な職業形態が美化されているところ、アダム・スミスの著述にあっては克服すべきもと映ることの対立について研究全体の座標軸設定とすべく整序した。 先に行っていた「ポリス的動物にとっての憲法―デュルケムの自殺類型からみる啓示と決断の相関―」(大阪公法研究会、2020 年9 月5 日)を敷衍する形で、アリストテレスにおける全体主義と個体主義について発表を行った(同、2021年9 月 18 日)。これは上の対立の理論的整序に関わり、共同体主義との関連で持ち出される古典的ポリス(的動物)論を評価し、位置づけるために、プラトン的な全体主義を起点として、アリストテレスの論がどのレヴェル・段階にあるかを特定した。 現代社会の制度面に即しては、いわゆる働き方改革の動向をフォローし、その法的な枠組みを確認するとともに、その啓発活動において、過労やそれを起因とする自殺に対してどのような取扱がなされているかを調査した。 最新の自殺者数の速報値を受けた自殺者数の推移に関する論評を吟味し、近年、女性の率が増加していることの要因を探る契機とした。特に、デュルケムの依拠した統計やデュルケムの主張にあっては、男性に比べ女性は自殺のリスクが少ない方にあたっていたこととの関係について今後の課題として把握した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
個人で遂行が可能な文献やデータの精査は計画的に行うことができたものの、すべての研究者に共通していると思われるが、新型コロナウィルス感染症の蔓延のために、他の研究者、特に専門分野の異なる研究者との交流がなかなか果たせなかった。元々所属している法学系の研究会はオンラインで実施されることが増えたが、非会員がオブザーバーとして参加できるフォーラム等が少なく、研究に資するインタビュー・討議を十分に展開できなかった。 その中でも幸い、日本の省庁や自治体職員とはオンラインで、研究会や意見交換会を実施することができ、実務の実態や傾向を把握することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まだ余談を許さないものの2022年の夏以降は教育現場におもむき調査することが可能になるのではと考える。教育実務の研究者の助力を得て、調査を行いたい。分担者として国際法分野と憲法分野それぞれの科研費研究に参画することができるようになったので、この機会を活かし、両研究の内容を当該研究に反映させたい。具体的にはILOの設立時の労働者保護の議論において、身体的過労や物理的な事故以外に、現代の用語でいうメンタルケアも視野に入っていた可能性について探究したい。同じく、ケルゼン研究のその後の変化、また、受け止められ方の変容を視野に入れ、ケルゼンのプラトン論がどのように位置づけられるか、また、どのように現代的意義を有するかを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の蔓延に前後して各種の研究活動に大きな制約が生じ、予算を支出する研究活動が十分に行えなかった。 2022年度後半にこれを集中的に挽回できるように、現段階で、訪問の予約・アレンジメントを綿密に行いたい。
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