2021 Fiscal Year Research-status Report
憲法の具体化としての公文書管理法制の形成ードイツのアーカイブズ法との比較研究
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21K01154
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
上代 庸平 武蔵野大学, 法学部, 教授 (90510793)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 公文書管理 / アーカイブズ学 / アーカイブズ法 / 公文書館 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度は、公文書管理法制(アーカイブズ法制)の対象となる「統治アーカイブズ」の概念構成を試みる作業を中心として、研究を行った。具体的には、いわゆる歴史アーカイブズをも含む従来の「アーカイブズ」・「公文書館」の概念及び用法と「統治アーカイブズ」の概念・用法とを比較した場合の両者の特性の摘出、そして、その特性を基礎づける統治上の憲法原則・憲法原理との関連付けについて、日独両国における「統治アーカイブズ」としての設立・設置経緯を有する制度・施設の実例に当たりながら、検討する作業を行った。 「統治アーカイブズ」は、「歴史アーカイブズ」とともに、その対象である統治に関する情報の蓄積を任務とする制度・施設であり、また、民主主義の下での国や地方公共団体といった統治主体の活動の監視ないし評価のために、国民のアクセスが保障される必要がある点において、「歴史アーカイブズ」とは異なる特性を有している。ドイツにおける「統治アーカイブズ」の機能はArchivbehoerde(公文書管理官庁)及びそれらの下で統治活動に関する情報の選別収集及び閲覧に供する任務を担う公文書館によって実現される。ドイツにおいては、公文書管理官庁及び公文書館の構成及び法的根拠は、連邦・州そして自治体のレベルに応じて異なりうるため、その制度的基盤及び法的根拠の実情把握に努めた。 またこれに並行して、我が国における国立公文書館や、自治体レベルにおける地域文書の収集・利活用機能を担うしくみの「統治アーカイブズ」としての活動状況について、資料調査及び必要に応じてヒアリング等による実地調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は、日独の「統治アーカイブズ」の概念構成を試みる作業が中心となったが、その際に、日独の典型的な「統治アーカイブズ」を抽出し、その制度やしくみ、施設に関する実地及び資料による調査を想定していたところ、新型コロナウイルス禍による往来の制限や調査受け入れの困難が発生したため、調査はもっぱら資料によることを余儀なくされた。しかし、幸いにもオンライン及びメール等による照会によりコミュニケーションを確保することは可能であり、また新型コロナウイルス禍の下での行政のDX化の進展を受けてのことであろうか、電子資料の提供を受けることもでき、研究の進捗に十分な質・量の資料を確保できたと感じている。往来や調査受け入れに関する制限が緩和された場合における実地調査の実施に向けては、確保した資料を基にして可能なかぎり予備調査を進め、精度を高めることができるように準備を進めている。 総じて、新型コロナウイルス禍による影響はあるものの、代替手段を確保して研究を進捗させ、また中間的な調査結果の公表の機会にも恵まれたことから、研究の進捗状況は概ね順調であると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の上では、2年目以降においては、公文書管理制度の形成における「主観的法的地位」の視座の移入の有用性について検討を行うとともに、その検討の上に立って、日本の公文書管理制度の設計における憲法上の観念の反映のあり方について、ドイツの制度形成との比較検討を行うことを予定する。 当年度は制度として形成されるべき「統治アーカイブズ」の概念付けを行い、検討範囲を絞り込むとともに、その法的・制度的背景を把握する作業を行ったが、その法的背景としては 、ドイツの場合には基本法に定める連邦国家制・民主的法治国家原則と情報自己決定があり、また州憲法に定める州の文化高権や、自治体レベルでは地方自治の制度的保障など、様々な憲法原則・憲法原理が存在していることを把握している。2年目以降は、これらの「統治アーカイブズ」の制度ごとに、それが十全に機能するための前提を摘出するとともに、憲法原則・憲法原理が当該「統治アーカイブズ」のしくみとして具体化する過程についての整理を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額となった金額は、独・墺における制度調査並びに資料収集、及び国内の地方公共団体の公文書管理制度に関する訪問調査に充てることを予定していたものである。当年度においては、新型コロナウイルス禍の影響により海外渡航を中止し、また国内調査も受け入れ自治体を探すことが極めて困難であったために延期せざるを得なかった。 この調査については、新型コロナウイルス禍の沈静状況についての所属機関の判断に基 づき、実施の是非を含めて改めて検討の上で、実施に向けた準備及び交渉を行う予定である。
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