2021 Fiscal Year Research-status Report
公共施設法に関する総合的研究―表現(集会)の自由との関係を中心に―
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21K01155
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
神橋 一彦 立教大学, 法学部, 教授 (20262545)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 公共施設法 / 公物法・営造物法 / 集会の自由 / 公の施設 / 法律上の争訟 / 議員の政治活動 / 表現の自由 / 地方自治 |
Outline of Annual Research Achievements |
①本研究は、公共施設の管理・運営をめぐる諸問題について、憲法・行政法の双方から、「公共施設法」という構想の下、総合的な検討を行い、憲法・行政法学説の理論的・体系的深化を目指すものものであるが、1年目である2021年度は、研究計画にそって、公共施設法の基礎となる公物法・営造物法の理論について改めて再検討を行った。すなわち、憲法の保障する集会の自由と公共施設の利用の関係について、憲法の人権論の観点からどのように考察、分析するかについて基本的な視座(給付と自由との関係、自由と平等取扱いとの関係など)を確立するとともに、行政法の観点からは、地方自治法244条の「公の施設」と講学上の「営造物」概念との関係や公の施設の使用をめぐる「管理」作用と「警察」作用の関係について、具体的な事例を踏まえて考察を深めた。またあわせて、集会を目的とする行政財産の目的外使用についても、金沢市庁舎前広場事件(第2次訴訟)など具体的事件を素材に検討を行った。 ②研究課題に関連するものとして、地方議会議員に対する出席停止の懲罰と法律上の争訟に関する研究を行った。これは、議員の政治活動に関するものであるが、公共施設の運営とも密接に関連する地方自治のあり方、住民と議員のコミュニケーションに関するテーマであり、本研究の課題である表現の自由や行政の政治的中立や憲法訴訟のあり方について考える際の基礎的な研究の一部をなす。今年度は、この領域に関しても、精力的に研究成果を公表した。 ③コロナ禍で出張、対面の研究活動がほとんどできなかった中において、計画に盛り込んだ「憲法訴訟の実務と学説」研究会(概ね2カ月に1回)における憲法訴訟にかかる共同研究などに参加し、本研究にかかわるテーマにつき報告を行うとともに、その成果を「法律時報」誌に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の研究計画の主たる内容は、①公共施設法の基礎となる、従来までの公物法・営造物法の理論について改めて再検討を行うとともに、利用者の法的地位の位置づけや、公共施設の設置・管理に関して、現在の問題について検討を行い、②不当な差別的言動のおそれや政治的中立を理由とする施設利用拒否にかかる法的な問題点については、施設管理への支障という公物管理の観点や、表現者と第三者の人権の対立をどのように調整するかという営造物管理(主として営造物の設置目的)との関係で検討を行うというものであった。 これについては、(a)憲法21条の「集会の自由」と公共施設の利用関係に関する学説・判例につき、改めて検討を行い、平等原則を基盤として、利用者の地位を根拠づけることを確認し、(b)地方自治法244条の「公の施設」の概念につき、講学上の「営造物」概念との異同について、それを構成する人的要素、物的要素との関係で改めて整理を行った。その上で(c)「公の施設」の管理(広義)につき、営造物警察の観点と(狭義の・本来の)営造物管理との関係を中心に具体的な事例に即して検討するとともに、ヘイトスピーチ規制を理由とする新たなタイプの利用制限についても、ある程度この2つの観点の中で検討を行うことができるのではないかという見通しを得た。(d)集会を目的とする行政財産の目的外使用許可については、許可権者の裁量が認められるところ、その裁量審査のあり方について、従来の研究を継続する形で検討を行った。さらに、(e)地方議会議員の懲罰に対する司法審査に研究範囲を拡大し、そこでは議員活動の自由と住民とのコミュニケーションも含めた議員個人の表現の自由は密接不可分の関係にあるとの結論に到達した。このことを通じ、本研究の基礎をなす表現の自由、憲法訴訟・行政訴訟と司法権のあり方などについて、基礎的な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2年目にあたる2022年度は、①2021年度に行った行政法・実体法的な研究を継続するとともに、その時点で得られた知見と憲法解釈論との間の総合的検討(憲法学における人権論と行政法学における行政裁量論との関係など)を行い、(b) 表現(集会)の自由に対する規制などを中心に、憲法を踏まえた法令解釈のあり方についてドイツ法の議論を検討し、日本との比較研究を行うことを当初の計画としている。 1年目(2021年度)の研究が、おおむね順調に進展しているしていることから、基本的にこの計画に沿って研究を進めていくことになるが、①行政法分野の公共施設法にかかる諸問題の検討を引き続き行うとともに、②行政法的なテーマから発して、憲法・法哲学的な問題との接合を図るという当初の計画を踏まえ、法治主義、民主主義、平等原則などの基本原則や司法権論も含めた憲法・法哲学的な問題に研究の軸を移すことになろう。また、公共施設の利用との関係で問題となる行政の政治的中立については、その実体も含め検討を深める予定である。③また、問題となる公共施設の多くは地方公共団体によって設置されたものであり、その地域のコミュニティのあり方とも関係がある。その観点からいえば、地方議会の自律性についての研究で得られた一定の知見を活かし、人権論から統治機構論に研究の視野を広げることが考えられる。④行政実務の調査や国内外の研究者との交流については、コロナ禍の影響で2022年度も大幅に制約されることが予想されるが、オンライン等でできるだけ補完することに務めるとともに、ドイツなどとの比較法研究については、入手した文献の丁寧な検討に努め、研究成果の達成を期することにしたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で出張等が制限されたことなどにより、次年度使用額に引き継ぐこととなった。使用計画については、当初の計画に大きな変更はなく、次年度使用額については、消耗品費に充当する予定である。
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Research Products
(6 results)