2023 Fiscal Year Research-status Report
渉外的な保全命令手続及び仲裁手続における外国法の調査・適用
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21K01162
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中野 俊一郎 神戸大学, 法学研究科, 名誉教授 (30180326)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 国際仲裁 / 国際私法 / 準拠法 / 国際民事手続法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画においては、初年度から3年目までの間に、国際仲裁における本案準拠法の決定、国際仲裁における絶対的強行法規の適用、仲裁廷における準拠法の調査・適用、準拠法の適用違背と仲裁判断の取消・執行といった問題について、一定の研究成果を示すことができた。そこで、これらの研究成果に加えて、従前の研究成果である仲裁合意の準拠法、仲裁合意の分離独立性、法の明らかな無視による仲裁判断取消し、仲裁判断を確認する外国判決の執行、国際仲裁と国家法秩序の関係、国際社会における法規範の多元性と国際私法といった論点に関する論稿に加筆・修正を加えたものをあわせて、これまでの研究のしめくくりとなる単行の研究書(中野俊一郎『国際仲裁と国際私法』(信山社、2023年9月))を公表することとした。幸い、昨年度の国際私法学会において「仲裁法の世界法化と国際私法」と題する研究報告を行う機会を得たため、そのために書き下ろした報告原稿に加筆したものを、同書のまとめとした。これにより、国際仲裁における準拠法の決定やその適用のあり方について、問題の全体像とあるべき方向性を示せたものと考えている(なお本書については、本年度仲裁ADR法学会奨励賞の受賞が内定した旨の連絡を頂いた)。 以上のほか、本研究計画の成果としては、本間靖規=中野俊一郎=酒井一(共著)『国際民事手続法』(有斐閣、第3版、2024年3月)、中野俊一郎(単著)「第118条」髙田裕成=三木浩一=山本克己=山本和彦・注釈民事訴訟法第2巻(有斐閣、2023年8月)726-749頁のほか、「国際商事仲裁ADR判例紹介(34)」JCAジャーナル70巻7号(2023年7月)48-49頁、「国際商事仲裁ADR判例紹介(38)」JCAジャーナル70巻12号(2023年12月)35-36頁がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、研究成果を研究書の形でとりまとめることができたのは、概ね当初計画の通りであって、満足のゆくものであったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、これまでの研究は概ね当初計画の通りに実施できており、満足のゆく成果につながったと考えているが、コロナ禍の影響で海外での調査研究が十分にできなかったことや、加齢による体力の衰え、定年退職に伴う諸般の手続等により、ごく一部に積み残した課題があることも否定できない。具体的には、従来、国際仲裁は仲裁地国、仲裁判断の執行は執行地国の国内公序に従うことが認められる反面、国際的・普遍的な公序という考え方は、少なくとも日本では認められてこなかった。国際私法の平面でもそれは同様であり、外国法の適用を排除する公序とは法廷地国の国内公序をいい、国際的公序、普遍的公序という考え方は否定されなければならない、というのがわが国の通説であった。しかしながら、国際仲裁は、国際取引社会が国境を越えて独自に発展させてきたグローバルな紛争解決手段であるから、それが各国の国内公序によってしか制約されないという見方は、必ずしも十分な説得力を有しないように思われる。現実に、執行地国が自国法に従って仲裁判断の執行を拒絶したところ、当事者が欧州人権裁判所に異議を申し立て、その結果、欧州人権条約が定める財産権の保障に対する侵害が認められた事例も報告されている。このような視点からすると、国際仲裁は、単に仲裁地国や執行地国の国内公序によって制限されるにとどまるものではなく、より広く、国際取引社会全体に妥当する公序、いわば国際的公序、普遍的公序といったものによっても拘束を受けているのではないか、との仮説が成り立ちうる。これはかなり大きなテーマであって、軽々に全体像や方向性を示せるものではないが、幸い研究期間の1年延長が認められたため、これまで継続してきた各国仲裁判例の研究に加えて、残り期間をこの問題の解明にあててみたいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響と体調の不具合、停年退職に伴う諸々の手続の増加により外国での調査が実施できなかったこと、学会や研究会の多くがオンラインで実施されたため出張の必要が減少したこと等により、研究費使用計画の実施に一部遅れを生じたが、次年度使用額は令和6年度に図書・雑誌の購入、国内出張等にあてる予定である。
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