2023 Fiscal Year Research-status Report
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21K01175
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神吉 知郁子 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (60608561)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 公正分配 / 格差是正 / 労働時間法制 |
Outline of Annual Research Achievements |
労働法制の公正分配機能を探求する目的に関して、2023年度は顕在化した紛争の解決結果である裁判例の収集・分析および比較法的考察に引き続き注力した。そのテーマとしては、昨年度は主に賃金の格差是正法制に焦点を当てたのに対して、金銭と同じように、むしろそれよりも有限で貴重な資源ともいえる時間の公正な分配のあり方についても考察を深めるべく、とくに長時間労働、過重労働を惹起するような日本の労使慣行、そしてそれらを許容する労働基準法上の労働時間制度の特徴と問題点を明らかにする論考をまとめ、発表した。そのなかでは、労務の提供に時間的制約の少ない男性労働者が労働者の典型であると位置付けられたという歴史的経緯から、家事や育児などの無償労働によって労務提供の時間的制約がかかりやすい女性労働者が「非」典型の非正規労働者と位置付けられ、低い処遇がなされてきたと同時に、判例法理もそうした状況を法規範に内部化することで維持強化してきたことを明らかにした。また、判例評釈の対象に、定年後再雇用労働者の正社員との間の賃金格差の不合理性問題と並んで、兼業労働者が労働時間を通算した結果として過重労働を行い健康を害した裁判例を取り上げ分析した。また、分配の不公正性の自律的な改善を図る方策としての集団的労働権の行使が挙げられるところ、日本では争議行為などの手段に訴えることが極めて少ないことが課題となっているが、比較法的視点からイギリスの法状況を参照することで、今後の日本の労働法制の展望を描く手がかりとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献や資料調査については概ね計画通りに進展している。比較法研究については主に円高により現地調査の費用捻出が難しく、研究手法に工夫の必要を感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
賃金と労働時間の公正な分配の問題点についての考察が深化してきたため、今後は、最終年度として、手続的な公正性担保機能の方策を具体的な政策として形にする努力をしたい。労働市場における資源の分配に関しては、多様なアクターがそれぞれの利害関係に応じて多様な公正さを主張するため、常に多数派と少数派間での規範の相剋が生じうる。対使用者だけでなく、労働者集団の内部においても、公正な意思決定プロセスの保障とその具体化の方向性を探る。
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Causes of Carryover |
海外調査や海外文献の購買のため為替変動に備えていたが、想定よりも円安が進み購買自体をを取りやめた分などがあったため若干の余剰が生じた。その分は次年度の調査のための旅費に支出する予定である。
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Research Products
(4 results)