2021 Fiscal Year Research-status Report
介護に係る公私の役割分担と家族介護者への支援のあり方-スウェーデン法を手掛かりに
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21K01178
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中野 妙子 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50313060)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 社会保障法 / 高齢者福祉 / 障害者福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、主として、わが国における公的な介護保障制度と家族介護者に対する支援施策の関係性について研究を進めた。とりわけ、公的な介護保障が不十分であることに伴い家族の介護負担が増加する中で、高齢者・障害者に対する虐待が注目を集めていることから、養護者による高齢者虐待に係る裁判例を収集し、被虐待高齢者に対する保護措置と養護者の利益の調整の問題について分析を行った。その結果として、①高齢者虐待防止法上、養護者による虐待を受けた高齢者の保護の必要性、保護の内容および実施時期の具体的判断は、市町村長の専門的見地に基づく合理的裁量に委ねられていると解すべきこと、②短期入所の措置が取られた場合の養護者の面会制限については、法律上明文の規定がないが、特段の事情がない限り面会制限は養護者および高齢者に対し市町村長が負う法的義務への違反には当たらないと解されること、③裁判例では、保護開始決定と面会制限措置の高齢者および養護者に対する違法性が区別せずに論じられていることが多いが、市町村長がそれぞれに対して負う職務上の法的義務の内容、程度、当該義務への違反の有無は厳密には区別して論じられること、を指摘することができた。 並行して、スウェーデンにおける高齢者福祉サービスの最近の動向についても研究を進めた。スウェーデンにおいては、普遍主義・脱家族主義を特徴とする社会サービスの発展が、女性を家庭内の育児・介護の負担から解放するとともに女性の就労の場を提供し、高い女性の就労率の達成に寄与してきた。しかし近年では、特に高齢者福祉についてはサービスの決定を厳格化することによる供給抑制が生じ、家族の介護負担の増加に繋がり、高齢者介護の再家族化が指摘される。このほか、障害者の介護に関して、障害者福祉の特別法の基本的内容や、障害があることによる特別な支出に対する金銭給付制度の概要について調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、主として日本の高齢者介護と家族介護者の支援に関連して高齢者虐待の裁判例研究を行い、その成果を雑誌に発表した(後掲)。スウェーデンの法制度については、新型コロナウィルス感染症の影響により現地調査ができていないが、日本から入手できる文献資料に基づき基礎的な研究を遂行した。研究はおおむね、当初の研究計画に沿って進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、日本法については、障害者(児)に係る法制度に軸足を移し、公的介護サービスと家族介護者の支援の関係性について裁判例・学説の分析を進める予定である。スウェーデン法については、高齢者介護については最新の動向のフォローを継続しながら、障害者福祉について、特別法の立法資料や学説の論稿、裁判例を収集し、介護サービスの支給決定の要件や給付内容について高齢者介護とどのような差異があるかを解明することを目指す。
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Causes of Carryover |
2021年度は国内出張も控え、研究協力者との打ち合わせも対面ではなくオンラインで行った結果、主に旅費について余剰が生じ、次年度使用額が生じた。2022年度以降、状況に応じて出張による対面での意見交換も再開するとともに、オンラインで海外の専門家のインタビューを行う際の翻訳サービスの利用にも助成金を充てる予定である。
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