2022 Fiscal Year Research-status Report
介護に係る公私の役割分担と家族介護者への支援のあり方-スウェーデン法を手掛かりに
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21K01178
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中野 妙子 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50313060)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 社会保障法 / 介護 / スウェーデン |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度に実施した研究の成果は以下のとおりである。 第一に、スウェーデンの高齢者介護について、社会サービス法に基づく公的福祉サービスと親族等によるインフォーマルな介護のバランスについて、同国の社会福祉庁による統計等も参考にしながら研究を遂行した。社会サービス法の法律案等においては、家族による介護はあくまで任意のものでなければならず、公的サービスを代替するものであってはならないとの政府の考えが示されているものの、統計や論文からは、地方自治体の財政事情の悪化などを背景として、実際には公的福祉サービスの決定に際して親族等による介護の可能性が考慮されることが増えていることが分かった。 第二に、障害者の介護に関連して、日本の障害年金制度では介護に係る費用の位置づけが曖昧であることが問題として指摘されることを踏まえて、スウェーデンの障害年金制度および関連する経済的保障制度について調査を行った。同国では障害年金は労働能力の低下を原因とする所得保障として明確に整理されており、介護の費用は別の金銭給付として制度化されていることが分かった。 その他に、日本における高齢者の老後の生活保障に関して、いわゆるリバースモーゲージ制度の利用拒否を理由とする生活保護廃止処分の適法性をめぐる裁判例の研究を行った。扶養や相続の問題と絡めてリバースモーゲージ制度が導入された経緯には批判の余地があるものの、同制度および同制度の利用を保護の要件とする処理基準には一定の合理性が認められること、他方で処理基準の合理性が担保されるためには貸付停止後に要保護者たる高齢者が速やかに保護を受給できる必要があるが、福祉事務所と社会福祉協議会の連携不足が指摘されていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高齢者介護と障害者介護の双方について、日本およびスウェーデンの制度の現状と課題の分析をおおむね当初の予定通り進めてきている。ただし、文献資料の調査研究が中心となっており、スウェーデンでのヒアリング調査が未実施となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は障害者の介護について、スウェーデンの社会サービス法および特別法による現行制度の概要(支給要件、支給対象者、支給決定のプロセス等)とその課題について研究を遂行する予定である。障害者の介護に係る費用については追加費用手当、パーソナルアシスタンス補償金、障害児介護手当など様々な金銭給付が設けられていることが分かったので、それらの給付制度の概要(支給要件、支給対象者、支給額等)についても併せて調査を行う。 また、引き続き、家族介護をめぐる我が国における議論動向や裁判例をフォローし、分析を行う。
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Causes of Carryover |
2022年度は新型コロナウィルス感染症の影響によりスウェーデンでの現地調査を実施することがかなわなかったため、現地調査の旅費として確保した額に相当する額が未使用額として生じた。2023年度は行動規制や入国規制もなくなったため、適宜、現地での調査を行うことで当該助成金を使用する予定である。
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