2021 Fiscal Year Research-status Report
職業訓練制度と社会法ーポストCOVID-19の労働世界に向けて
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21K01179
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
矢野 昌浩 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50253943)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 職業訓練 / セーフティネット / 自己決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
労働者主導の職業訓練の法的仕組みを検討のために、本年度においては研究計画をやや修正して、3つのアプローチを試みた。第1は、俯瞰的な観点から、日本の労働法理論における自己決定論の再検討を行った。本研究との関係では2点が確認できた。1つは、当然のことながら、労働者の従属的地位を前提にした場合に、その自己決定のためには、セーフティネットが重要になるという点である。もう1つは、使用者の単独決定規制のための確実な一個の法源として、労働者の同意・意思を重視するという点である。これらの点は、労働者主導の職業訓練の法的仕組みが、労働者の生活保障を可能にするものであるとともに、労働者の意思を最大限に尊重するものではなければならないという含意をもたらす。 第2は、フランスの職業訓練法の検討である。とりわけ、労働者主導の職業訓練の法的仕組みを確立した2018年改革においては、職業訓練は企業と国の経済発展のための道具であるが、人間をシステムの中心に置くことで社会解放の手段となる点、職業訓練活動がスポンサーの選択に近くなれば財政負担も得られるが、そのことによって個人の職業生活の選択の自由を削減する点が強調されていたことが注目される。また、失業時の職業訓練に対する金銭給付を整理した。第3は、職業訓練における生活保障とは別に、職業訓練を通じた生活保障という観点からは、労働条件規制が重要である。これは当初の研究計画にはなかったが、COVID-19によるパンデミックのなかで注目されたケア労働に関心を寄せるなかであらためて着目するに至った。ケア労働従事者(とくに訪問介護労働従事者)の労働実態についてのヒアリングも行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、日本法の検討として、職業訓練法・職業能力開発促進法のみならず、それにリンクする立法の変遷もフォローすることで、職業訓練を中心とする労働法的仕組みを把握すること、職業訓練法・職業能力開発促進法以外の職業訓練制度の仕組みについて、資料等から把握できる実態も踏まえながら整理することを予定していたが、より具体的なフィールドを設定して実際の職業訓練が労働者の生活保障に果たしている役割(職業訓練における生活保障と職業訓練を通じた生活保障)を解明する必要性を意識するようになり、COVID-19のなかで注目されるようになったケア労働の問題(労働市場における需給関係、職業訓練を通じた資格取得、事業所における処遇、国の関与)にあらたに着手したため。
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Strategy for Future Research Activity |
文献研究を中心としてフランスの職業訓練法制の歴史的検討を行う。また、日本の職業訓練で大きな役割を果たしていた「インフォーマルな学習」の一部(OJT)と「ノンフォーマルな学習」(企業が行う通常のOff-JT)について、「フォーマルな学習」を制度構築の中心としてきたヨーロッパでも関心が高まっているが(2012年12月20日欧州理事会勧告)、とくにフランスにおいてこの動向がいかなる法的仕組みとなって表現されているのかをフォローする(2002年1月17日社会近代化法により導入された職業経験認証制度など)。その一方で、日本のケア労働者の育成・処遇問題について、実態調査を続ける。
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Causes of Carryover |
物品購入について端数が生じたため。
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Research Products
(4 results)