2021 Fiscal Year Research-status Report
競争法における「一般消費者概念」の定立に関する研究
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21K01181
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
岩本 諭 佐賀大学, 経済学部, 教授 (00284604)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 一般消費者 / 平均的な消費者 / 脆弱な消費者 / 消費者概念 / 若年消費者 / 消費者保護 / 独占禁止法 / 景品表示法 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間の初年度に当る本年度は、研究計画書記載の当該年度の計画「独禁法・景表法の立法史調査、消費者の特性の把握」に基づき、「一般消費者の概念」、また、「消費者の年齢その他の特性」を中心に調査と研究を行った。当該年度の研究成果は、以下に記載するとおり、2022年4月1日に施行される改正民法に基づく成年年齢引下げの動向に対応した、関係学会での企画があり、2つの学会に参加する機会を得た。また、「一般消費者概念」に関する基礎的研究を公表する機会を得た。 (1)日本消費者教育学会第41回全国大会(2021年10月2,3日、主催校・佐賀大学、オンライン開催)の大会記念シンポジウム(テーマ「デジタルプラットフォーマーと若年消費者~「情報」を読み解く教育の実現に向けて~」)において、同テーマをタイトルとする基調報告を行った。続くパネルディスカッションにおいて司会・コーディネーターを担当し、四名のパネリスト(石橋愛架氏(鹿児島大学)、土屋善和氏(琉球大学)、海田朋子氏(宮崎県消費生活センター)、陣内誠氏(ITサポートさが))とともに、テーマに関するディスカッションを行った。 (2)日本消費者法学会第14回大会(主催校・法政大学、オンライン開催)において、大会テーマ「成年年齢引下げに伴う消費者問題」の下、個別報告(「『脆弱な消費者』概念を手がかりとした若年消費者保護に関する考察」)を行った。続くディスカッションにおいて、本研究遂行者のほか、河上正二氏(東京大学名誉教授)、坂東俊矢氏(京都産業大学)、谷本圭子氏(立命館大学)、高嶌英弘氏(京都産業大学)、大本久美子氏(大阪教育大学)、カライスコス アントニオス氏(京都大学)の6氏とともにパネリストを務めた。 (3)単著「独占禁止法における『一般消費者』の考察-概念定立に向けた視点の考察-」を執筆・公表した(2022年1月)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、コロナ禍の影響により、他大学の図書館や国の図書館における調査は実施せず、文献による調査、オンラインで開催される研究会を通じて研究を実施した。文献調査および2つの学会報告に向けて開催された、それぞれの研究会における研究打ち合わせやプレ報告での意見交換を通じて、「一般消費者」を考察する上で重要な消費者概念、特に年齢特性から論じられる若年消費者と子どもの概念と特性と消費者保護法制に関する研究を推進することができ、2つの学会報告と3つの学術論文を公表することができた。この進捗状況から、「(2)おおむね順調」に当たると判断した。 当初の当該年度の研究計画として予定していた独占禁止法や景品表示法の立法時における「一般消費者」の用語の導入の背景についての調査は、他大学や国会図書館、関係機関等での資料収集を念頭に置いていたが、今後のコロナ禍の影響等を見極めて適切な対応をしていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の2年目に当たる2022年度に予定されている研究計画は、「EU・ドイツの「平均的な消費者」概念の理論・判例調査」であり、具体的には、「EUで立法された『平均的な消費者』概念に関する理論展開および判例の状況について、特に2019年に策定されたプラットフォーマ―との消費者取引に関する方針(New Deal for Consumer)に基づく法運用を中心に調査を行う」こととしている。 2022年3月にEUでは、複数の特定行為を禁止する事前規制法として、デジタルプラットフォーマー規制法となるデジタルプラットフォーム市場法(略称DMA)が委員会採択された。2022年10月には施行予定との報道があり、かかるEUの動向・法制度の内容および、同法における「消費者」の位置付けの把握が、本研究において重要な鍵になると思われる。これらの調査を最新のドイツ語と英語の文献を中心に行うとともに、既に資料収集を行っているNew Deal for Consumerとの関係について研究を進める予定である。 また、日本においても、デジタルプラットフォーム市場規制の法的フレームが確定し、2022年にはデジタル広告市場に対する規制に関する制度が明確にされる予定であり、日本におけるデジタルプラットフォーマーに対する規制の中で「消費者」がどのような位置付けを持つことになるのかについての研究を併せて実施する。この研究についても、文献調査が中心となるが、所属している日本消費者法学会、日本経済法学会、日本消費者教育学会等の研究会、公正取引委員会や消費者庁が開催する研究会やシンポジウムへの参加を行うことにより、研究を進める。
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Causes of Carryover |
当初2020年度に最終年度を迎える予定であった基盤研究(C)課題番号18K01301について、同年度のコロナ禍の影響により約45万円の未執行額があり、研究期間の1年延長を申請し認められていたため、2021年度は、1年延長の研究費と、本研究費をそれぞれ使用する環境にあった。2021年度に入っても、コロナ禍の下、予定していた他大学図書館や国の関係機関での調査はほぼ実施できず、2つの学会報告および事前研究会等も全てオンライン開催となったため、2つの研究費における旅費が使用できないこととなった。 研究費執行にあたっては、まず1年延長した分の研究を完了に至る必要があることから、図書購入等による研究を中心とした。2つの研究が「消費者」「消費者保護」の点で共通する要素があることから、1年延長分の研究経費で購入した文献の中に、本研究に関連する内容が記述された文献が複数存在したことから、本研究で当初予定していた文献に係る研究費の支出には至らなかった。 本研究の2022年度の研究費の執行においては、コロナ禍の影響が軽減されるとの見通しの中、他大学図書館等での実地調査、対面実施の研究会等への参加を行う。また、昨年度に発注した複数の洋書がドイツ出版社の事情により1年遅れとなっておりり、これらが今年度に入荷されることにより、図書購入予算の適切な執行に反映させることができる。
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