2021 Fiscal Year Research-status Report
障害者権利条約に基づく勧告を反映した障害者雇用政策の再構築
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21K01184
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
中川 純 東京経済大学, 現代法学部, 教授 (50326534)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 障害者権利条約 / 雇用 / 労働 / 社会保障 / 授産施設 |
Outline of Annual Research Achievements |
国連障害者権利条約(以下、条約)は、その義務の履行のためにとった措置に関する報告を各締約国に課している。障害者権利委員会(以下、委員会)は、締約国の報告を審査し、一般的意見・勧告を含む「総括所見(Concluding Observations)」を公表することとなっている。総括所見は、委員会が締約国の障害者の実態を踏まえ、条約の条項ごとに政策に対する一般的意見・勧告を示すものであり、締約国に対し条約の趣旨にそったかたちでの政策の立案、実施を求める形式となっている。本研究は、この総括所見における「仕事と雇用(条約27条)」および「充分な生活水準及び社会保障(条約28条)に関する勧告に対して、 ①委員会による我が国に対する勧告の位置づけと適合性、②すでに勧告を受けた締約国による、勧告への対応の方法とその内容(政策や実務の変更)、それらを踏まえて、③勧告に対し、我が国がとるべき対応の内容、方法を検討するものである。 2021年度は、条約27条(仕事と雇用)に関して、オーストラリアと韓国の授産施設政策に対する総括所見の内容の分析(②の内容)から、我が国への一般的意見・勧告の内容を予測し、その政策の正当性(目的の重要性と手段の実効性)から国内法化の実現可能性を検討した(③の内容)。 オーストラリアと韓国に対する勧告の分析を踏まえて、我が国が、両国に対して示された「一般就労移行の促進」、「授産施設の廃止・見直し」に関する勧告を受けた場合、授産施設の仕組みを基本に据える我が国の政策においてその廃止には制度改編を必要とすると評価した。また、「賃金決定方式の見直し」に関する勧告を受けた場合、客観的な賃金査定方式を取り入れざるをえないとしつつ、その財政・行政上のコストが膨大になると評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進捗状況が遅れている理由は2つある。第1に、2021年度に障害者権利委員会が、我が国の初次報告に対する「総括所見」を公表せず(2020年または2021年度内に公表の予定が、2022年8月に延期されている)、分析がおこなえなったことである。 第2に、新型コロナウイルスの蔓延に伴う海外への渡航制限のため、調査対象国(オーストラリア、カナダなど)で調査をおこなうことができなかったことである。本来であれば、対象国の政策の状況、勧告に対する政策の変化や障害者支援団体の反応などについて現地調査をおこなう予定であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度については、2021年度に実施できなった海外での現地調査を積極的におこなう予定である。第1に、我が国の初次報告に対する「総合所見」の審査が2022年8月におこなわれる見通しであることから、その審査がおこなわれるジュネーブに赴き、「総合所見」形成過程において権利委員会が採る立場を分析したい。第2に、2022年度内にオーストラリアまたはカナダで現地調査をおこなう予定である。 研究計画では、調査対象国をオーストラリアとカナダにしていたが、それらに加えて「総合所見」において積極的な政策の見直しを求められた韓国と「総合所見」の内容への対応が遅れているタイを対象としたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2021年度は、新型コロナウイルスまん延に伴う海外渡航制限のため、予定していた2回の海外調査をおこなえず、旅費の支出がなかったことにより、次年度使用額が生じた。 2022年度は、2度の海外調査を予定していたが、3回の調査を実施することとしたい。
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