2021 Fiscal Year Research-status Report
「非雇用」労働者に対する社会保険の適用可能性―理論的基礎の検討を踏まえて
Project/Area Number |
21K01185
|
Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
柴田 洋二郎 中京大学, 法学部, 教授 (90400473)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 非雇用労働者と社会保険 / 補足医療保険(フランス) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、働き方の多様化のなかで非雇用労働者が増加し、雇用労働者との外延が曖昧化するなかで、社会保険制度がどのように対応すべきかを検討するものである。具体的には、フランスを参考に、被用者保険(医療・年金)と労働保険(労災・失業)の双方を視野に入れて非雇用労働者に対する社会保険の適用のあり方を探る。これにより、社会保険の人的対象・財源・給付形態にかかる理論的基礎を闡明し、非雇用労働者に固有の社会保険上の保護や雇用労働者との中間的な保護を講じる可能性を検討することが目的である。 2021年度は、フランスの医療保険における雇用労働者と非雇用労働者について検討した。医療保険について、フランスでは、社会保障制度による医療保険制度(基礎制度)とともに、基礎制度の適用後に残る患者負担分を保障する制度(補足制度)が大きな役割を果たしている。基礎制度がすべての者を対象とする(わが国でいう皆保険)のに対し、補足制度は、少なくとも現状では職業的な枠組み(特に民間企業の被用者)のなかで改革が行われている。そのため、雇用労働者と非雇用労働者とでは、保障に大きな差が生じうる。 具体的には、民間企業の被用者(勤続年数を問わない)については、補足医療保険に加入させることが、使用者に義務づけられている。しかもその際、一定の患者負担部分を保障する補足医療保険契約が締結された場合、使用者は社会保障負担および税負担で優遇措置が受けられることとされている。このため、民間企業の被用者の補足医療保険は一定の質(保険内容)が保障されることとなる。さらに、補足医療保険の費用負担(保険料)について、使用者が半分以上を負担しなければならない。これに対して、非雇用労働者については、補足医療保険への加入は法的に義務づけられていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランスを参考に、被用者保険(医療・年金)と労働保険(労災・失業)の検討を通じて非雇用労働者に対する社会保険の適用のあり方を探る本研究において、2021年度は医療保険についてフランスの状況を考察することができた。このため研究は「おおむね順調に進展している」と評価する。 他方で、年金・労災・失業の各社会保険の検討は、十分に行うことができていない。そのため、「当初の計画以上に進展している」とまではいえない。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、年金・労災・失業の各社会保険についても研究を推進する。その際、フランスの社会保障制度の歴史的経緯を明らかにするとともに、新しい動向にも着目する。例えば、労災保険では、2016年に、雇用労働者ではないクラウドワーカーを保護するため、自営業が、任意加入の労災保険に加入した場合、プラットフォーム事業者は、上限額付で保険料を支払う責任を負うことが法定された。さらに、失業保険(わが国の雇用保険)では、2018年に、失業保険の適用対象を拡大し、一部の自営業に定額の失業給付を行うこととした。これらは、フランスが就業上の地位にかかる社会保険から、就業形態に中立的な社会保険に向かっているともみることができるため、制度の具体的内容とともに、その背景にある議論や理論の解明にも努めたい。
|
Causes of Carryover |
本研究は、フランス法制の比較研究を重要な柱としているが、コロナウイルスの感染拡大を受けて、1.フランスへの在外出張を見送ったことで外国旅費を使用せず、2.フランスの書籍についても到着に大幅な遅れが生じた。これらの理由により、外国旅費や図書購入費について、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、コロナウイルスの影響が終息した際に、あらためてフランスへの在外出張を計画し、フランス人研究者と意見交換・議論を行うことや、フランスの関連制度にかかる文献・資料の購入に充てたいと考えている。
|