2021 Fiscal Year Research-status Report
被害者利用の間接正犯事例における被害者の自己答責性の意義
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21K01201
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
塩谷 毅 岡山大学, 社会文化科学学域, 教授 (60325074)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 被害者 / 間接正犯 / 自己答責性 |
Outline of Annual Research Achievements |
「被害者利用の間接正犯」の問題は、①強制による場合と②欺罔による場合の2つの局面で議論されているが、今年度はまず①強制による場合を検討した。この点、従来は、判例において間接正犯が認められる強制の程度は「絶対的強制かあるいはこれに近い程度のもの」とされてきたが、最決平成16年1月20日刑集58巻1号1頁が「被利用者が他行為の選択可能性がない精神状態に陥っていたか」という新基準を打ち出して以降、判例では新基準が使われるようになっている。この新基準は、間接正犯の根拠付けに関する主要学説のどれと相性がよくて、どれと相性が悪いのかを検討した。 その結果、現実的危険性説と結果発生の確実性を正犯性メルクマールとする規範的障害説は、従来からの基準と相性がよく、新基準とはあまり整合しないのではないかと思われた。これに対して、広い意味での遡及禁止論(すなわち、自律的決定説や被害者の自己答責性論)は新基準によく適合するようであった。行為支配論は、この説の論者からは新基準は好意的に受け取られているようである。 間接正犯の根拠付けについて、私は被害者の自己答責性の観点から説明すべきと考えているが、特に、強制による被害者利用の場合には、行為者の強制によって被害者の自己答責能力、特に行動制御能力が失われていたのではないかという点が重要であると考えるに至った。 この観点から、①前掲最決平成16年1月20日および②神戸地判平成27年11月13日判時2337号97頁と③広島高判昭和29年6月30日高刑集7巻6号944頁を検討した。これらの裁判では、それぞれ被告人は①は殺人未遂の間接正犯、②は殺人の間接正犯、③は自殺教唆とされているが、その結論は被害者の自己答責性の観点からも是認できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度中に、上記実績の概要に記載した内容について、主に間接正犯の根拠付けと主要裁判例の検討を行って、「強制による被害者利用の間接正犯」という1本の論文にまとめた。同論文は、『大塚裕史先生古稀記念企画 実務と理論の架橋(仮題)』に掲載予定であり、すでに出版社(成文堂)に提出し、現在、校正を行っている最中である。同論文集は、出版社によると、原稿の集まり具合が悪く、予定より刊行が遅れているそうであるが、2022年度中には刊行される予定のようである。
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Strategy for Future Research Activity |
上記に記したように、2022年度は、新論文「強制による被害者利用の間接正犯」の校正を行い、被害者利用の間接正犯における「強制による場合」の問題について、一応の解決を得る予定である。 その過程で、被害者の自己答責性の観点からは、「被害者は心理的に圧迫され、パニックに陥って、そもそも冷静な決断ができないような心理的状況になっていたのではないか。あるいは、状況が分かっていたとしても、心理的圧迫によって、背後者に逆らえず、自分の行動を自分の意思で決定し制御することができなくなっていたのではないか。たとえ事実としては他行為の選択可能性があったとしても、また、仮に、被害者が他行為選択可能性の有無や他行為を選択することの困難性を誤解していたのだとしても、少なくとも被害者の心理としては「選択の余地がない、他に逃げ場はない」と考えて自殺(あるいは生命危殆化)を決断し実行したのではないか。それとも、被害者は、心理的圧迫を受けながらも、自殺する以外に途がないわけではないと考えていたにもかかわらず、あえて自殺を選択するという決断をしたのであろうか」という点が重要であることを明らかにするつもりである。
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Causes of Carryover |
書籍や情報関連機器を購入する上で、50万円中198円の端数が生じた。翌年度合算して使用する予定である。
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