2022 Fiscal Year Research-status Report
被害者利用の間接正犯事例における被害者の自己答責性の意義
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21K01201
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
塩谷 毅 岡山大学, 社会文化科学学域, 教授 (60325074)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 被害者 / 間接正犯 / 承諾 / 自己答責性 |
Outline of Annual Research Achievements |
「被害者利用の間接正犯」の問題は、①強制による場合と②欺罔による場合の2つの局面で議論されているが、今年度は、②欺罔による場合を中心に検討した。 この点、まず、被害者の承諾論と間接正犯論の関係について、伝統的な一元説と近年流力な二元説の対立があるが、検討の結果、被害者の承諾の有効性と行為者の間接正犯性の判断は別のものであり、両者は実際にもずれることがあり得るとする二元説の方が妥当であるように思われた。 そして、二元説に基づき行為者の(間接)正犯性を判断する場合、被害者の承諾の有効性とは切り離して行為者の正犯性を判断することになるが、それには「被害者の自己答責性」の観点が重要であることを確認した。 被害者の自己答責性を判断するためには、①自己答責的な法益処分意思、②自己答責能力、③客観的な自己答責的態度の3つの点を検討する必要があるが、欺罔による被害者利用の場合には、①自己答責的な法益処分意思の有効性の判断が特に問題になる。これについて、被害者の承諾の有効性に関する主観的考察方法(重大な錯誤説)と客観的考察方法(法益関係的錯誤説)の対立が参考になり、結論としては、客観的考察方法に基づいて考察すべきであるように思われた。 このような観点から、偽装心中事件(最判昭和33・11・21刑集12巻15号3519頁)を検討した結果、被告人の行為に殺人罪を成立させたことは不当であり、自殺関与罪を成立させるべきであったと最終的に結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度中に、上記実績の概要に記載した内容について、主に、被害者の承諾論と間接正犯論の関係性、行為者の間接正犯性の判断方法、自己答責的な法益処分意思の有効性などの検討を行って、「欺罔による被害者利用の間接正犯」という1本の論文にまとめた。同論文は、立命館法学第405・406号(松宮孝明先生ほか退職記念号)に掲載され、すでに2023年3月25日に公刊された。 また、前年度に考察を行った「強制による被害者利用の間接正犯」という論文も、掲載予定の論文集の公刊が予定より遅れていたが、同論文集は『実務と理論の架橋 -刑事法学の実践的課題に向けて(大塚裕史先生古稀祝賀論文集)』として2023年2月1日に公刊され、同論文は同論文集の中に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、今までの検討結果を踏まえて、「強制による第三者利用の間接正犯」の問題について検討を行う予定である。 その過程で、①強制による被害者利用と②強制による第三者利用の場合とでは、行為者の間接正犯性の判断において、そもそも違いがあるのか否か、違いがあるとすればその実質的理由は何か、強制の程度はそれぞれどの程度のものが必要なのかといった点を検討する予定である。 そして、近年の最高裁判例(最決令和2・8・24刑集74巻5号517頁)が「強制による第三者利用の間接正犯」の問題にとって重要であるので、当該判例を中心に検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
図書と情報関連機器を購入する上で、特に購入を予定していた図書の数冊がすでに絶版となっていて手に入らなかったため、一定額の端数が生じた。当該金額は、翌年度、ほかの図書や情報関連機器等の購入に合算して使用する予定である。
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