2021 Fiscal Year Research-status Report
占有移転型担保物権における占有移転の機能・意義の再検討
Project/Area Number |
21K01215
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
直井 義典 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (20448343)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 質権 / 占有 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、動産質ならびに債権質における占有移転の意義、さらに債権質についてはそもそも占有移転が可能であるのかについて検討を加えた。 質権に関するわが国の法制では占有移転は動産質においてのみ意義を有するものと考えられる。動産質においては占有移転が質権の効力要件ならびに第三者対抗要件とされている(344条・352条)。これに対してフランスでは、2006年改正により占有非移転型の有体動産質権が認められたことで、占有移転の果たす意義に変容が生じたものと考えられる。旧法下では、占有移転の機能として、事前差押え機能、公示機能、質物特定機能が挙げられていたが、これらはいずれも登記等の公示手段によっても果たしうるとの批判がなされ、占有移転固有の機能としては設定者保護機能が挙げられていた。改正はこうした批判に親和的なものであり、また占有移転だけでは十分な公示機能が果たせない弱点を占有非移転型質権は補った。しかし占有非移転型質権の公示手段である登録にも取引の迅速性の観点での弱点があり、不十分とはいえ占有移転の公示機能を否定し去ることは適切ではない。 債権質については、占有を財の物理的把握と解する場合にそもそも債権の占有を観念できるのかが問題となり、担保手段として譲渡担保との競合を生じさせる。フランスでは債権の占有と有体動産のそれとを区別しないのが通説であったが、これを区別する見解が主張されている。債権の占有移転を、権利の把握と解する見解や債権質設定者からの権限の奪取、すなわち事実上の行使・回収権限の奪取とする見解がそれに該当する。このようにして、債権質においても占有移転が存することが基礎づけられている。 以上のように、債権についても有体物におけるとは異なるものの占有移転を観念することはでき、設定者保護機能を果たしうることが明らかとされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
質権において占有移転が果たしている機能について、フランスでは物理的な占有移転が困難と考えられる債権についても占有移転が存するとの有力な見解が存在することを明らかにし、また、フランスでは占有移転の機能として設定者保護機能というわが国ではあまり着目されていない機能も存することが明らかとなった。 また、2006年改正でフランスでは占有非移転型質権が導入されたことから、質権における占有移転の機能を再検討する必要が生じた。そこでは登録によって占有移転の有していた機能を代替することが目指されたものの、必ずしも成功しているとは言い難く、占有移転型質権の重要性が失われたわけではないことが明らかとされた。 このことは、物理的占有移転が観念しがたい債権の担保化において、担保法の大改正にも拘らずフランスの担保法が債権質規定を存置したこと、改正前の債権質規定の不十分さを条文の改正によって補うといった方策が取られたことにもあらわれている。すなわち、債権質と競合する制度としてダイイ譲渡をはじめとする債権譲渡やフィデュシーがあるが、債権の担保化手段をこれらに委ねてしまうのではなく、フランスの立法者は債権質との併存という選択をすることで、占有移転の意義を保ったのである。 わが国においても担保法改正の検討が開始されているが、そこにおいても単なる質権の廃止ではなく譲渡担保との併存が念頭に置かれており、フランスの状況を参照することには意義がある。令和3年度の上記研究内容は、わが国の担保法改正作業において参考資料の1つを提供する意義があるものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き占有移転の有する意義について、質権を中心に検討する。研究の展開方向としては3つのものが想定されている。 第1は、令和3年度のフランス法研究が民法典の定める一般的な質権に関するものであったことから、それを民法典上の自動車質権や民法典以外に規定のある営業財産質権等に拡大することである。特に自動車質の検討は、民法典が占有非移転型質権に擬制留置権を付与したこととの関係で意義があるものと考えられる。 第2は、フランス担保法の改正が国際的に有する意義の検討である。占有非移転型質権の導入、質権と競合するフィデュシーの導入などが、他の諸国で設定された担保手段のフランスにおける効力にいかなる影響を与えるのかは検討に値する。 第3は、有体動産について占有非移転型質権と占有移転型質権との併存状況に関する分析である。占有非移転型質権の公示手段としての登録が十分に機能していないために併存状況はしばらく続くものと予測されるが、今後、登録制度をどのように改良していくのか、最終的には占有移転型質権は消滅に至るのかについて考察を加える。フランスはおそらく前者の方向であろうと考えられるが、わが国では動産債権譲渡特例法の内容をどこまで一般的な本則として機能させるのかという問題につながっている。 以上の3つの方向性があることを想起しながら、わが国の立法への影響を意識しつつフランス法を中心に研究を継続する予定である。
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Causes of Carryover |
残額のみで購入できる金額の書籍がなかったためであり、令和4年度に書籍代の一部として使用予定である。
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Research Products
(2 results)