2022 Fiscal Year Research-status Report
占有移転型担保物権における占有移転の機能・意義の再検討
Project/Area Number |
21K01215
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
直井 義典 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (20448343)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 質権 / 占有 / 担保法改正 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第1に、2006年の民法典改正によりフランスで非占有移転型質権が認められたこと等が、国外で設定された約定担保物権の効力に対して与える影響の分析、第2に、自動車の担保化手段についての日仏の相違の検討を通じた占有概念の相違に関する考察を行った。 前者につき、2006年担保法改正以前のフランス破毀院判例は外国で設定された担保権の国内効を否定していたこと、改正によって占有非移転型質権・フィデュシー譲渡・流担保契約が可能となったためにこうした担保権の国内効が容認される可能性が広がったことを指摘した。同時に、公示の問題など課題が残ることから準拠法の選択や担保法制の統一化による対処が図られるがそれが国内取引の安全を害する側面もあることを指摘した。 後者につき、わが国では自動車抵当が、フランスでは自動車質が用いられるとの相違が生じた原因を分析した。日仏いずれにおいても、自動車の担保化は自動車産業の保護と並んで融資の活性化を目的とするものであること、自動車の登録制度自体は、事故時の責任の所在を明確にするという主として公法的な目的で作られた制度であることは共通している。にも拘らず担保手法には相違が生じた原因としては、第1に民法体系の相違、すなわち、フランスでは不動産や有体動産といった担保の目的(客体)に着目した分類が卓越するのに対し、わが国では質権や抵当権といった担保手法に着目した分類がなされた上で、質権では担保目的による分類がなされていること、第2に質権における占有概念の違いがあること、すなわち、フランスにおいては擬制占有概念が学説上も認められているのに対して、わが国では民法345条が質権設定者による代理占有を禁じていることから擬制占有概念が認められないこと、を指摘した。そして、担保物権法の改正に当たってはこうした占有概念の相違を意識した体系化・分類がなされるべきことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に予定した通り自動車の担保化に関する研究を進めることができた。これによって、2006年改正以前から存した占有非移転型質権の位置づけが図られた。 さらに、有体物についての占有非移転型担保から展開して、金銭の担保化や債権などの無体物の担保化へと展開するための道筋が見えてきている。 また、外国で設定された担保の国内効に関する分析を加えたことも、不動産や有体動産に比べて国際的な移転が容易である金銭・仮想通貨等の担保化について考察を加えるに際して有益な視点を与えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年は、金銭や債権をはじめとする無体物の担保化手法、特に占有非移転型質権についての検討を加える予定である。金銭については、預金・手形・電子債権・現金など様々な態様で存在しており、担保化の手段も様々なものが考えられることから、金銭の存在態様の相違にも注意を払いながらフランスにおける議論を分析する予定である。口座の担保化に関するフランス民法2360条の存在ならびにそれをめぐる議論の分析を出発点とする予定である。 また、金銭についても譲渡担保の利用が考えられることから、金銭や債権の所有権についても検討することが必要と考えている。わが国では金銭については占有と所有が一致するものと考えられているが、こうした見解が金銭の担保手法を多様化する際の障害となるのではないかという疑問がある。また、債権についてはわが国では所有権が否定されるがフランスでは肯定される点が、譲渡担保等の所有権移転型担保の理論的な説明にいかなる影響を及ぼすのかも解決すべき問題であると考えられる。
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Causes of Carryover |
助成金によって購入した書籍の数が多いため、概算での助成の申請とならざるを得なかった。残額はごく少額であるので、翌年度分の使用計画は当初の通りで変更なく、旅費と書籍等の物品購入を中心に使用する予定である。
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