2021 Fiscal Year Research-status Report
金融証券市場における商品介入の法理 ―プロダクト・ガバナンス―
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21K01216
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 真生子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (40580494)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | プロダクトガバナンス / 商品介入権限 / 行動経済学 / 消費者被害 / 金融商品の設計及び流通 |
Outline of Annual Research Achievements |
行動経済学の知見に基づき制度化された豪州のプロダクトガバナンスおよび商品介入権について市中協議文書等の一次資料にあたり、調査を行った。 プロダクトガバナンスとは、消費者の目的・財務状況・ニーズに合致する商品を確実に入手できるようにするために、金融商品の発行者や販売者に対して課される金融商品の設計・販売義務を意味する。豪州ではこの義務を会社法7条8Aに新たに定めた。対象となる商品にはデリバティブ等が組み込まれた金融商品だけでなく、消費者リースやクレジット契約も含まれる。金融商品の発行者や販売者は対象商品について適切な「対象市場の決定」(TMD)を行い、対象市場を構成する消費者層や商品の配布条件等を書面で公表しなければならない。興味深いのは、TMDがもはや適切でないことを合理的に示唆する事象を「レビュートリガー」として指定し、そのレビューを定期的に行う時期を具体的に定めておくことである。ただしこの新しい義務が発効したのは2021年10月であり、制度の運用実態と効果についてはさらに注視していく必要がある。 一方、商品介入権はプロダクトガバナンスと密接に関連し、消費者の不利益を防ぐために、規制庁(ASIC)に金融商品の設計や流通・販売に積極的に介入する権限を与えるものである。金融商品の設計や流通が対象となる消費者層のニーズに「適合」せず、「重大な消費者被害のリスク」がある場合、商品の流通が禁止されたり、ある商品の特徴を利用することを禁じられる。これまでOTCバイナリーオプションや短期クレジット(short-term credit)などに介入権限が行使されている。一方で、現行法では「重大な消費者被害のリスク」の定義が不明確であることから、その解釈を巡る議論があり、商品介入権を行使された企業(Cigno社等)と規制庁の間で法的な争いが生じるなど、運用上の支障が生じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
豪州のプロダクトガバナンスに関する規定と商品介入権(プロダクト・インターベンション)の概要、制度の導入に至る背景については概ね整理ができた。ただし、プロダクトガバナンスについては、制度の実施からあまり多くの時間が経っていないため、実際の運用状況や運用上の問題点などがあまり明らかではない。この点について、研究者からの評価もまだ不明であるため、引き続き調査をするとともに、豪州の実務家に対する調査を通じてより多くの情報を入手したいと考えている。一方で、商品介入権については、現在、商品介入権が行使された商品について調査を進めているところである。具体的には、CFD(差金決済取引)または短期クレジットの介入権の実施状況やその影響(介入権を行使された業者と規制庁の争い)について、具体的な調査を行っている。以上の豪州の調査状況については、現在、一旦原稿にまとめる作業をしている。 一方で、調査を行いながら、商品介入権やプロダクトガバナンスによる強力な消費者保護政策が金融証券市場で行われることについて、豪州における規制のTwin Peaks Modelが影響していることがわかってきた。Twin Peaks Modelについてもう少し深く調査を行いたいと考えている。また、わが国の類似の制度との比較を通じた考察も同時に行う必要があるため、分析が済み次第、さらに原稿の執筆を加速して論文の形で公表を行いたい。 他方で、令和3年度は豪州の調査を行いながら、香港の研究者による商品介入権に関する論文を読み、英国の商品介入権を参考にして、アジア諸国においても商品介入権が導入されていることを理解した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度に行った豪州に関する調査で、規制のTwin Peaks Modelが金融商品市場での消費者保護政策と深い関係がある可能性が見えてきたため、Twin Peaks Modelに関する国内外の研究の調査を実施したい。ただし、本研究課題とやや距離があるTwin Peaks Modelの研究は必要限度にとどめたい。 令和3年度の研究成果のまとめを行いながらも、令和4年度は、英国におけるプロダクトガバナンスおよび商品介入権の状況を具体的に調査することとしたい。市中協議文書を中心に読み込みながら、規制導入の背景について理解を深めたい。また、これらの制度が研究者によりどのような評価を受けているのかも併せて調査する。さらに、英国の実務家への調査を通じて、実務上の運用状況や問題点を明らかにしていきたい。 なお、英国の制度を参考に、香港、シンガポール、台湾に導入されたと思われる商品介入権は、各国において一定の違いが見られるとされている。このため、その要因について分析を行うことで、英国の制度の長所や短所を明らかにすることを試みたい。 また、最終年度での調査結果のまとめに向けて、金融商品という商品への製造物責任という視点および視覚の整合性や、当初計画で掲げていたコンダクトリスク管理とプロダクトガバナンスの関連についてどのような発想の下で、どのような調査が必要かも検討していきたい。
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Causes of Carryover |
契約をしているデータベースの費用が、翌年度310ポンド程値上がりすることがわかり、また、円安によりデータベース契約の費用負担がさらに増えることに備えるため、次年度に予算を回すこととした。次年度使用額はデータベース契約の契約料の上昇分を賄うために利用する。
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