2022 Fiscal Year Research-status Report
金融証券市場における商品介入の法理 ―プロダクト・ガバナンス―
Project/Area Number |
21K01216
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 真生子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (40580494)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 商品介入命令 / プロダクトガバナンス / ASIC / 顧客に対する重大な不利益 / バイナリーオプション / 金融商品の市場からの排除 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の2つの柱の1つである「商品介入権(product intervention power)」について調査し、研究成果を公表した。 世界金融危機後の金融商品をめぐる投資者保護政策では、金融商品のライフサイクルに合わせた実効的な規制が注目されている。金融商品のライフサイクルに従来の規制を当てはめて考えると、従来の規制はサイクルの中間地点である商品の勧誘・販売時点に対応が集中しているが、初期段階(商品の設計、開発、管理など)および最終段階(販売後の商品評価、救済措置等)では業者に対する有効な規制がない。そこで、金融商品を他の市場に流通する商品と同じように、その開発・設計段階から販売後の管理まで金融商品のライフサイクルに応じた適切な商品の管理を関連業者に行わせるのがプロダクトガバナンスである。このガバナンス体制を前提として、業者が商品を顧客のニーズに「適合」させることができず、結果として消費者被害のリスクをもたらす場合には、最終的な措置として、規制当局が商品介入権を行使し、有害な商品を市場から排除する。商品介入権はセーフティネットとして機能することになる。 商品介入権は商品の事前承認、商品の販売禁止、価格介入等の措置を含むが、このような強力な措置はかえって市場の競争の有効性と効率性を妨げてしまうおそれがある。このため、ある金融商品が個人顧客に「重大な不利益」をもたらす結果となった場合にのみ、介入権が行使される。公表論文では、商品介入権制度を有するオーストラリアを中心に、規制導入の背景から規制の具体的な内容を紹介するとともに、商品介入権の対象となった金融商品や、規制庁の処分をめぐる販売業者との紛争についてまとめている。 金融消費者のリテラシーの不足やオンライン投資の手軽さ、金融テクノロジーの進歩の速さを考えると、商品介入権制度は脆弱な金融消費者を保護するうえで有効的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究では、金融行政のTwin Peaks Modelが有効な投資者保護規制のために果たす役割を分析軸の1つに加えたいと考えたが、調査の過程でTwin Peaks Modelは必ずしも利点ばかりがあるとは限らないことがわかり、現状では本研究にTwin Peaks Modelの分析を加える意義は少ないと考えるに至った。また、わが国の仕組み債の不適切販売の報道を受けて、仕組み債に照準を合わせた香港及びデンマークの商品介入規制に興味を持ち、関連文献の調査を行った。興味深い内容もあったが、当初の研究計画の遂行に支障が出ることを考え、今後の調査課題とすることにした。 一方、プロダクトガバナンスというコンセプトが生まれた背景にある「コンダクトリスク」についても調査を行った。金融庁は「コンダクトリスク」を金融機関等が利用者保護や市場の公正・透明に寄与すべきだという社会的期待等に応えられなかった場合に顕在化するリスクであり、従来からある概念を比較的新しい言葉で言い換えただけであると整理している。しかし英国の規制庁(FCA)が公表したリテールコンダクトリスクに関する2011年の文書を分析すると、そうしたリスクを引き起こす金融機関の役職員の行動等は、消費者の行動バイアスを意識的または無意識的に利用ないし悪用して行われることが多く、消費者に不利益をもたらす結果になると分析されている。こうした分析をもとに、金融機関が採るべき行動を金融商品のライフサイクルに応じて検討しているのがプロダクトガバナンスであるということが理解できた。わが国ではガイダンスを示すにとどまっているが、プロダクトガバナンスの具体的な方法について制度化している国が複数あり、このうちイギリスおよびオーストラリアの規制庁の市中協議文書等を読み込みながらそれぞれの国の制度の特徴を分析している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の成果を(1)コンダクトリスクとプロダクトガバナンスの関係、(2)プロダクトガバナンスの制度設計に分けてまとめるために、引き続き研究を推進していく。 (1)については、これまでの調査研究に加え、ホフステードの文化モデルを使って米国の金融セクターにおけるコンダクトリスクを分析した研究論文を参考に、コンダクトリスクに関する組織論的な視点を加え、プロダクトガバナンスにおけるコンダクトリスクへの対処方法をルール化ないし制度化するうえでの示唆を得たい。 (2)についてはイギリス及びオーストラリアのプロダクトガバナンスに関する制度について引き続き調査する。プロダクトガバナンスにおいては、金融商品の企画段階で消費者の行動バイアスから生じる不利益から、消費者を保護する施策を講じることが有益であるとされている。そこで、イギリスについてはProduct Intervention and Product Governance sourcebook(PROD)を、オーストラリアについてはDesign and Distribution Obligation(DDO)の内容を中心にプロダクトガバナンスの実効的な枠組みについて調査する。オーストラリアについては、issuerに課される義務(とくに、target marketの決定(TMD)、TMDと一致しない金融商品の重要な取引に関する規制庁への通知義務など)、distributorに課される義務(特に、監視義務や販売後のレビュー)について整理を行いたい。なお、規制導入の背景(立法事実)や、(オーストラリアにおける)規制庁と処分業者との紛争から、制度上の問題点なども分析する。なお、制度に関する変更がないかを確認するため、契約中のデータベース等を用いて最新の情報を入手することに努めたい。
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Causes of Carryover |
最終年度は現地調査を行い、不足している文献や情報の収集を行う予定でいたが、旅費・宿泊費の高騰、円安の影響で当初の計画よりも現地調査に費用が掛かることが想定された。現地調査を行うことで文献収集費が不足することも考えられた。現地調査と文献費の代替となるデータベース契約を継続契約する方が有益であると考えた。ただし、データベース契約の契約料の本体価格は微増し、円安による支払額が増加すると考えられるため、契約に必要な資金を残し、かつ文献収集に充当するために費用を残した。
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