2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K01223
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
野田 和裕 広島大学, 人間社会科学研究科(法), 教授 (90294503)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 補償効果 / 累積効果 / 定型約款 / 不当条項 / 契約全体の考慮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,契約条項の内容規制において,取引全体・契約全体との関連を考慮に入れる際に,どのような点に留意すべきか検討するものであり,本年度は,ドイツ約款法の分析の結果,次のような研究成果が得られた。 ドイツ約款法における不当条項規制では,「他の条項との相互作用」や「契約全体との関連」において,包括的な利益衡量を行う必要がある。不当性審査における考慮要素として,「契約全体の考慮」,とりわけ,他の条項との相互作用として生じる「補償効果」と「累積効果」が重要な評価基準となっている 。 契約全体の考慮によると,ある条項による契約相手方の不利益が,他の条項による利益によって埋め合わされることがありうる。このような「補償効果」が認められると,当該条項は無効判断を免れることが可能となる。補償の要件として,少なくとも,①利益の同等性(同一機能性ないし目的一致性),②双方の条項の相互関連性,③(経済的補償ではなく)法的補償であることが必要である。 他方で,契約全体の考慮によると,単独では許容される内容の条項が,他の条項との相互作用の結果として,契約相手方に不当な不利益を惹起する「累積効果」を生じる可能性がある。その要件として,少なくとも,双方の条項の相互関連性が必要である。「累積効果」が生じると,原則として,相互関連性のある双方の条項が無効となる。「累積効果」は,複数の条項の「組み合わせによる負の作用」が問題となる場合のほか,複数の条項による「些細な負担の蓄積」が問題となる場合にも生じうる。また,相互関連性のある2つの条項のうち,無効な条項が有効な条項にその無効性を「感染」させる結果,累積効果によって双方の条項が無効となることがありうる。 こうした研究成果は,新設されたばかりの民法548条の2第2項の解釈運用にあたり,新たな視点をもたらすものであり,学問的のみならず実務的にも重要な意義が認められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,本研究を開始するにあたって必要となる基礎的情報調査として,ドイツ約款法に関する判例・学説の調査を行った。さらに,その若干の分析・検討の成果を論文(野田和裕「不当条項の内容規制と契約全体の考慮」磯村保/後藤巻則/窪田充見/山本敬三 編『法律行為法・契約法の課題と展望』(成文堂,2022年)pp. 349-369)にまとめることができた。それゆえ,おおむね順調に進めることができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を遂行するにあたっては、約款法に関連する隣接諸領域の副次的な成果も期待できる。本研究の中間報告として、いくつかの研究会において研究報告を行う予定である。また、こうした中間報告を大学紀要あるいは法律系商業雑誌に逐次掲載したいと考えている。
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Causes of Carryover |
注文済みの洋書の刊行予定日が遅れたため。 翌年度に刊行され次第,購入のために使用する予定である。
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Research Products
(2 results)