2022 Fiscal Year Research-status Report
アジア7ヶ国の倒産法制の特徴と背景要因分析ー中小企業経営者の視点とビジネス文化
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21K01230
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Research Institution | SBI Graduate School |
Principal Investigator |
小林 秀之 SBI大学院大学, SBI大学院大学 経営管理研究科, 教授 (30107495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安達 明久 新潟産業大学, 経済学部, 教授 (10552474)
村上 正子 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (10312787)
齋藤 善人 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (60362092)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 倒産制度 / 国際比較 / 中小企業 / 海外事業の撤退 / 事業再建 / アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、倒産法制に関する国際比較研究の現状を踏まえて、「中小企業経営者」という新たな視点を設定し、統一的俯瞰的な観点から各国の倒産法制の最新状況について、日本と比較しつつ分かり易く整理するとともに、アジア諸国との異同の背景となっている「社会経済的要因」を、統計データ等の解析を基にした実証的手法により明らかにすることを目的としている。研究期間2年目にあたる2022年度における主要な研究実績は、下記の2点である。 ①中小企業が海外事業から完全に撤退し会社清算を行うことを決断した場合を想定し、支払不能前の場合と支払不能後の2つのケースについて、各々における各国倒産制度の特徴を「清算の容易性」の観点から分析整理する作業を行った。具体的には、申請権者と申請要件、裁判所等の関与、申請後の会社経営権の扱い、財産配分計画への裁判所・債権者の関与、事業再生努力義務の有無、清算完了までの期間などである。また、撤退に際する従業員の解雇の容易性についても、予告期間の長短、事前回避努力義務、政府等の関与、離職給付支払義務の有無と金額などについても比較検討を行った。 ②逆に、中小企業が海外事業において業績不振に陥った際に、事業環境の改善等を見越し、事業継続を志す場合を想定し、支払不能前の場合と支払不能後の2つのケースについて、各々における各国倒産制度の特徴を「事業再建再生の容易性」の観点から分析整理する作業を行った。具体的には、事業再生手続きにおける既存経営者の経営権確保の有無、再建計画案策定における既存経営者の主導権の有無、再建計画承認手続きの容易性、担保権者等の特別権限者の規制条項の有無などである。 上記2点は、円高の進行、新型コロナ禍などの近時の経済環境の大きな変化を踏まえて、本研究の主眼である「中小企業経営者」の視点に立った倒産法制および関連制度の比較分析に重点を置いたものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画としては、全体を4段階に区分し、2022年度末までに、第1段階(倒産法制に関する歴史・制度内容を俯瞰整理)、第2段階(各種倒産制度の特徴を分析するために必要な文献資料等の収集整理)、および、第3段階(標準典型事例を前提とした各国の倒産法制の特徴の抽出整理)を完了し、第4段階(抽出した特徴の背景要因となっていると考えられるビジネス文化、経済体制、宗教等の社会経済要因の分析)の作業を一部実施することを想定していた。 しかしながら、2020年度からの新型コロナ禍の長期化により第3段階の中核的な作業として想定していた海外訪問調査が大きく制約されたこと、さらには、円高の進行やウクライナ戦争による急激な経済環境の変化が中小企業の海外事業にも大きな影響を及ぼし、海外事業の縮小・撤退といった動きが少なからず生じたことなどから、第3段階の作業の前提となる標準典型事例の内容についても再検討が必要となった。このため、2022年度における第3段階の作業については、2021年度に実施した第1・第2段階で収集整理した文献資料等を基に、各国の倒産制度の特徴に関する仮説的・暫定的な分析を行う内容に留めざるを得ない結果となった。このため、2022年度末時点の進捗は、当初計画より「やや遅れている」状況にあると判断した。 なお、2022年度においては、2023年度に主に想定していた第4段階の分析作業に関連し、各国の解雇法制と社会経済的要因の相関関係の分析手法に関する再検討作業、および、中国Eコマース事業におけるアマゾン社の撤退要因とアリババ社の成功要因を中国特有の社会経済的要因の差異(金融インフラ整備状況、ビジネス文化・商慣習の差異)への対応力の異同から明らかにする作業など、第4段階の基礎となる分析手法の有効性について検証を行う作業を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究スケジュールについては、下記の2点を踏まえて、海外訪問調査を早急に実施し、これまでの遅れを回復すべく努力することとしたい。 ①2023年5月に新型コロナの感染症5類への移行などが実施され、海外渡航者の再入国手続きも緩和されたことなどから、海外訪問調査実施の環境が整ったと考えられること。 ②また、第3段階の作業の前提となる「標準典型事例」の設定内容についても、前述のように、現下の中小企業を取り巻く環境を踏まえて、2つの類型パターンを設定し、また、その具体的な検討項目についても2022年度の作業により一定の方向付けができたこと。 なお、海外訪問調査については、訪問先との連絡調整、担当研究者のスケジュールの確保などから、依然として流動的な要素が存在する。また、それら訪問調査の結果を整理し、検討する作業を行うための時間も不可欠であることから、今後の作業の進捗をみつつ、必要がある場合は、本研究の期間を最大1年間延長し、2024年度末までとすることも今後検討することとしたい。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」に記したように、2022年度に当初予定していた第3段階の中心となる海外訪問調査が、新型コロナ禍に伴う海外渡航制限等により困難となったことなどから、予算のうち相当額が未使用となり、次年度使用額が発生したものである。同未使用繰り越し分については、2023年5月の新型コロナ5類移行などにより海外渡航調査が円滑に実施できる状況となったことから、2023年度中に順次実施する方向で訪問予定先の選定、先方との日程調整等を進めており、年度内に使用する予定である。
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