2022 Fiscal Year Research-status Report
差止命令等の非金銭的裁判の国際裁判管轄および承認・執行の規律の再検討
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21K01232
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
的場 朝子 京都女子大学, 法学部, 教授 (20403214)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際裁判管轄 / 外国判決の承認・執行 / 実効的救済 / 法の適用関係 / 執行判決請求 |
Outline of Annual Research Achievements |
金銭の支払いを命じる判決以上に、それ以外のことを命じる裁判、特に、一定の作為・不作為を命じる裁判の国境を越えての執行は困難を伴うことが多い。しかし、これまでの研究で明らかになったところでは、その困難性にかかわらず、外国裁判所の命じた非金銭裁判の承認・執行は実際に行われている(少なくとも、承認・執行を行う国々がある)。 近年、2011年の国連指導原則などを受ける形で「ビジネスと人権」をめぐる考え方が国際的に普及するにしたがい、人権侵害(環境汚染等をも含む)に影響を与える多国籍企業等の活動の差止めを求める訴えなども見られるようになっており、従前からの典型的な知的財産権侵害、不正競争行為、名誉棄損行為等の差止めを求めるようなケースに限られず、より多様な類型の事件で非金銭的裁判による実効的救済が求められるようになりつつある。 しかしながら、諸国の法制度は統一されているわけではないため、裁判を行った外国に存在する制度が、その承認・執行が求められる国には存在しないこともありえる。さらに、外国裁判所の判断が示されてから執行が求められる国での手続に至るまでには時間が経過するため、その間、事情の変更や法律関係の変動が生じることも考えられる。 そこで、権利者に対する救済の実効的付与の観点からは、第1に、外国裁判所の下した非金銭的裁判の執行にあたり、その執行が求められる国の法制度に合うように外国裁判の「適応」を行うことが必要になりうる。第2に、外国裁判所による審理の対象になっていない事後的な事情変更や法律関係の変動を、執行を求められている国の手続の審理範囲に加え、場合によっては外国非金銭的裁判を「修正・変更」する形で、迅速に外国裁判を実効化することが求められうる。これら2点について、令和4年度までに限られた範囲ではあるが研究発表を行ったが、さらに研究を深める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和4年度は、令和3年度に引き続きパンデミックの影響で出入国に制限があり、海外調査に出かけることが困難であった。さらに、学内業務として教務委員を担当したことなどもあって個人の研究に使用できる時間が減少した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、外国非金銭裁判の承認・執行に関する側面を中心に研究を進めてきたが、令和5年度は、これまでの研究結果をも踏まえつつ、国際裁判管轄に関する問題の側面に焦点を当てていく予定である。 EU構成国などにおいては、インターネットを通じた人格権侵害の差止めを求める訴えの国際裁判管轄につき、EU司法裁判所の先決判断や各構成国の判断が注目を集めている。また、「ビジネスと人権」の問題に関連した非金銭的裁判を求める訴えの国際裁判管轄も、特に、複数の法域に関連事件の訴えが提起されるような場合などにつき、いかなる国に国際裁判管轄が認められるべきなのかといった形で議論がなされている。 今後の研究の進め方としては、まずは国際的な議論状況を把握し、そのうえで、特に非金銭裁判との関係で重要となる検討点を抽出したい。そのために、令和5年度は、海外調査に行い、海外の研究者と直接会って話をする計画を立てている。 なお、研究の進捗が遅れているため、本研究の遂行期間を1年間延ばす形で申請を行うことも検討している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、パンデミックの影響等のため海外調査に出かけることが困難であったことにある。 令和5年度は(現時点において)、そうした影響に基づく出入国の制限が緩和されてきているため、海外調査に出かけることが可能になる見込みである。世界的な航空券代の高騰と円安の影響により、海外調査に出かけることにかかる費用が想定以上の額になるのではないかと考えられる。
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Remarks |
的場朝子「国際法学会2022年度(第125年次)研究大会・公募分科会B(パネル)『ビジネスと人権』の理論と実践―『指導原則』の次の10年」パネル報告要旨「国際私法学から見た『ビジネスと人権』」国際法外交雑誌121巻3号120-121頁(国際法学会、2022年11月)。
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Research Products
(2 results)