2021 Fiscal Year Research-status Report
経営判断の失敗による取締役の責任の適正化に向けた理論的検討
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21K01244
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
堀田 佳文 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (40375605)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 経営判断原則 / 取締役の責任 / コーポレートガバナンス・コード |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、わが国における経営判断原則、および取締役の責任全般に関する先行研究の網羅的な収集の実施に注力した。併せて、経営判断原則にかかる裁判例の掘り起こし作業も実施した。取締役の経営判断の失敗を扱う裁判例は、事実認定が非常に詳細である点に特徴があり、長文にわたるものが多く、分析に時間を要している。アパマンショップ事件最高裁判決を受けて下級審裁判例の態度は依然として揺れ動いている様子が窺われる。 研究実施計画において主たる比較対象を想定しているドイツ法については、想定を超えるコロナ禍の長期化とウクライナ情勢の悪化により、国内で利用を予定していた研究機関の図書館が対外的に閉鎖されたこと、および海外との交通が事実上途絶したことから、予定していた資料収集が実施できていない状況にある。このため、本格的な資料の収集は来年度以降に持ち越さざるをえず、今年度はかねてより収集していた体系書やコンメンタールの分析を実施するにとどまった。 本研究課題は、一見すると論じ尽くされているようにみえるものの、理論的に詰めてみると未解明な点が多い、わが国における経営判断原則について、立ち入って検討しようとするものである。その主要な方法論としては、膨大に集積された裁判例の分析・検討と、ドイツ法を中心とする比較法的検討とを柱とするところ、前者については相応の進捗がみられたものの、後者については諸般の情勢により遅れざるをえなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画上、第一年度(本年度)においては、内外の資料を収集し、その分析に着手することを目的としていた。しかしながら、研究計画策定時には予想できなかったコロナ禍の拡大とウクライナ情勢の悪化により、国内で利用を予定していた外部研究機関が対外的に閉鎖されたこと、および海外との交通が事実上途絶したことにより、予定していた海外(ドイツ)における資料収集を、今年度は実施することができなかった。このため、国内の先行業績および裁判例の収集・分析についてはおおむね予定通り進んでいるものの、紙資料が中心のドイツ語文献の収集は遅れており、すでに入手済みであった文献について部分的な分析を開始したにとどまった。後者の点で、本研究課題の進捗状況は、研究計画と対比すると遅れていると評価せざるをえない。 しかしながら上記の遅れは、研究計画において一定程度織り込み済みの事態でもあった。研究計画上、初年度に海外調査を実施できない場合には、海外調査を翌年度以降に持ち越し、初年度にできることを先行して実施することとしており、本研究課題はこの代替プランに沿って進行しているともいえる。この点を勘案すると、初年度における本研究課題の進捗は「やや遅れている」にとどまる。 コロナ禍の見通しは依然として予断を許さないが、昨年度と比べると落ち着きを取り戻しつつあるように思われる。状況によっては翌年度の後半に海外調査を実施できる可能性もあり、この点を踏まえつつ柔軟に計画を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き当初の研究計画に沿いつつも、コロナ禍の拡大状況やウクライナ情勢の動向をにらみながら、本研究課題を進めていく。その際、第二年度においてもなお海外調査が実施できない場合の対応も視野に入れなければならないが、もし第二年度に海外調査が実施できない場合であっても、当初より第三年度に海外における研究討議を予定しているので、そこでカバーすることを考えたい。併せて、海外における文献調査が実施できない間の資料収集について、当初予定していた国内研究機関における資料収集以外に、他の機関における資料収集の実施も検討し、可能な限り本研究課題の遂行に支障を来さないよう工夫を施していく。研究計画上、第二年度の後半以降に資料の本格的な分析に入ることとなっており、これに支障が出ないように上記の点につきフォローを行いつつ粘り強く研究計画を進めていく。 第二年度において注力すべきは、本研究計画の本体部分ともいうべき資料の分析作業である。すでに膨大な資料が収集されつつあるが、これを可能な限り網羅的に、かつ手際よく処理していきたい。上述の通り、経営判断原則にかかる裁判例には大部なものが多く、事実認定も非常に複雑なのであるが、そこから本質を見失うことなく、エッセンスを抽出し、規範の洗い出しを実施する。規範が分かれていると評価せざるをえない場合には、その分岐点を明らかにすることを試みたい。併せて、国際的な議論を展開する点についても、日本法における経営判断原則の相対化を意識しつつ、比較法的分析を進める。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の拡大とウクライナ情勢悪化により、予定していた海外資料収集が実施できず、その分を翌年度に繰り越したため、次年度使用額が生じている。翌年度において、引き続き情勢を注視しつつ海外資料収集実施の時期を探ることとし、そのときに使用するものとする。
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