2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K01245
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
玉井 利幸 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (90377052)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | M&A / 支配株主 / 締出し / MBO |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、経済産業省が2019年に公表した「公正なM&Aの在り方に関する指針」が提案する様々な公正性担保措置は、M&Aの公正性を確保するのに十分な措置といえるかを検討した。 M&Aの指針は、独立取締役に対する高度な信頼を前提に、独立取締役で構成される特別委員会をM&Aの公正性確保のための基点と位置付け、特別委員会の尽力によって公正なM&Aの実現を図ろうとしているといえる。支配株主による従属会社の買収においては、このような指針のアプローチは構造的に無理があると考えられる。支配株主の利益相反を監督することが期待されている対象会社(従属会社)の独立取締役は、監督対象である支配株主によって選任されるからである。支配株主の信認義務など、支配株主に対して直接の法的コントロールを及ぼすべきであるが、現在の日本の状況ではそれは難しいだろう。そうであっても、指針の提案のように取引の公正性の確保を被監督者(支配株主)に支配されている監督者(独立取締役)に依存するという構造的に無理のある仕組みに期待するのではなく、少数派の株主により選任された独立取締役による承認や、利害関係のない少数株主の過半数による承認(majority of the minority: MOM)を支配株主による従属会社の買収の実施のための条件とするなど、支配株主の影響の及ばない仕組みを重視すべきである。 MBO(management buyout)の場合も、対象会社の独立取締役の選任過程は社内取締役の影響を受けている可能性が高いため、必ずしも信頼できるとは限らない。MBOの公正性を確保するために、独立取締役(特別委員会)に依存することのない別のメカニズム、例えば会社支配権市場の価格発見機能と利益相反抑制機能を活用することができる事前の積極的なマーケット・チェックの実施を奨励すべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由により、現在までの進捗状況は順調であると考える。 経済産業省が2019年に公表した「公正なM&Aの在り方に関する指針」は、公正性担保措置と呼ばれる様々な実務上の手続的な工夫を提案し、M&Aを行う当事者にその採用を促し、手続的な公正性が確保された状態でM&Aが行われるようにすることで、公正なM&Aの実現を図ろうとしている。本研究は、このような指針の意図が実現するかを明らかにするために、(1)指針の提案する措置はM&Aの公正性を確保するのに十分な措置といえるか、(2)M&Aを行う当事者に適切なインセンティブを付与するような司法審査の方法はどのようなものかを明らかにすることを目的とするものである。 当初の計画では、2021年度は、これら二つの目的のうち、(1)について研究することとしていた。研究計画で予定していたように、米国の議論を参照しながら、M&Aの指針の提案する公正性担保措置ごとに、M&Aの公正性確保のために個々の公正性担保措置が果たす役割・機能はどのようなものかを明らかにした上で、M&Aの指針が対象とする二つのM&A取引類型(支配株主による従属会社の買収とMBO〔management buyout〕)について、取引類型ごとに、指針の提案する公正性担保措置が取引の公正性を確保するのに十分であるかどうかを検討し、不足していると思われる部分を明らかにするとともに、その不足を補うための方策を検討することができたので、順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度以降は、本研究の二つめの目的である、M&Aを行う当事者に適切なインセンティブを付与するような司法審査の方法はどのようなものかについて研究を進めていく予定である。 M&Aの指針は、用いられた措置が全体として実効的に機能しているかどうかで手続的公正性の有無を判断すべきことを提案しているので、裁判所もこのような考え方を採用する可能性が高い。これまでの裁判所の判断からすると、裁判所は総合考慮の名の下に、実際に用いられた措置によって支配株主による従属会社の買収やMBO(management buyout)の利益相反の問題や情報の非対称性の問題が十分に解決されているかどうかを精査することはなく、独立取締役の用いた措置を肯定的に評価して、容易に手続的公正性を認め、実体的な公正性についての判断を差し控えることになる可能性が高い。当事者に誤ったインセンティブを与えるような、現状追認的な審査方法が用いられる可能性が高いように思われる。そうならないよう、裁判所は、M&Aの類型ごとに、公正な手続といえるために必要となる措置を具体的に設定し、その措置が用いられていなければ公正な手続とはいえず、実体的な公正性を審査するようにした方がよいと思われる。米国の議論を参照しながら、M&Aの類型ごとにM&Aの公正性を確保するために必要と思われる措置を明らかにし、当事者に適切なインセンティブを与えうる審査方法について研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
購入予定だった書籍の発行が遅れ、学内締切を過ぎたため、残額が生じた。 残額分は2022年度での購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)