2022 Fiscal Year Research-status Report
匿名による訴訟追行のための手続法的課題の分析と考察
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21K01248
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川嶋 隆憲 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50534468)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 民事訴訟法 / 公開主義 / 秘密保護 / 氏名・住所等の秘匿 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度は、「民事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号)が成立したことを受けて、改正法の下での匿名による訴訟追行の可能性や課題等について、文献調査を中心とした調査を進めた。今般の法改正によって新たに創設された「当事者に対する住所、氏名等の秘匿」(改正民訴法133条~133条の4)の制度は、裁判所の秘匿決定により一方当事者等の住所・氏名等の秘匿扱いを認める一方、相手方当事者の攻撃・防御権の保障の観点から一定の要件の下で秘匿事項へのアクセスを認める建て付けとなっている。同制度は、主としてDVや性犯罪の被害者が当事者となる場合が想定されているものの、条文上、対象となる人的範囲は必ずしもこれらの者に限定されておらず、その外延については解釈の余地が残されていること、相手方当事者の秘匿事項へのアクセスがいかなる場合に認められるかもまた、関係規定の解釈に委ねられていること等が確認できた。 また、当年度は、上記と並行して、訴訟における情報秘匿制度に関する外国法の知見を獲得することを目的として、イギリスのCMP(Closed Material Procedures)に関する調査を行った。CMPは、安全保障等の公益に関わる非開示情報を訴訟資料として用いる場合に実施される非公開手続であり、同手続においては、当該情報の機密性を維持するために、当事者本人およびその代理人の立ち会いが排除される一方、特別に選任された「特別代弁人(special advocate)」が当事者の利益のために主張や証明活動を行う。当事者やその代理人が訴訟に関する情報から遮断されるという点では、CMPと本研究課題である「匿名訴訟」との間には類似した問題状況が存在するところ、CMPの創設とその後の展開は、高度の秘密保護の要請と当事者権の保障の要請とのバランスを図る一つの実例として示唆に富むものであるとの認識を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当年度は、当初の計画では想定していなかった、他の科研費研究課題(Covid-19の影響により研究期間を延長することとなったもの)との同時並行で本研究課題の遂行に取り組んだ。上記研究課題は当年度が最終年度となったことから、これまでの調査・研究成果を取りまとめて公表することに注力した。また、当年度下半期には、これらの科研費研究課題のほか、別途、民事裁判のIT化に関連した共同調査に着手することとなり、これに一定のエフォートを割く必要を生じた。本研究課題については、「研究実績の概要」に記載のとおり、関連する外国法事情の調査・分析とその成果の公表を通じて、本研究計画を推進する上での有益な知見を得ることができた点では、当初の想定以上の進展があったと言えるが、上記の各事情により、本研究課題の中心的な問題関心である「当事者に対する住所、氏名等の秘匿」の制度については、まとまった成果を発表するには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題が当初の目標としていた、匿名による訴訟追行のための新たな手続ルールの構築は、2022年5月の「民事訴訟法等の一部を改正する法律」によって新設された「当事者に対する住所、氏名等の秘匿」の制度によって、一定程度、立法的に実現されることとなったが、今般の改正が、匿名による訴訟追行を必要とする当事者等のニーズに十分に対応しうるかは、改正法の理解やその解釈・運用によって異なりうるものと考えられる。2022年5月の民訴法等改正は、2026年3月までの段階的施行が予定されているところ、上記「当事者に対する住所、氏名等の秘匿」の制度は既に施行に移っており、制度の輪郭も次第に明らかとなりつつある。次年度は、改正法の立法過程における議論、立法解説や先行研究等にも考察の手掛かりを得て、改正法の施行によって解決されることとなった問題と残された問題、改正法の下で新たに生じうる問題等の調査・分析に努めたい。
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Causes of Carryover |
研究計画の進行の遅れ等により、関係資料の購入や訪問調査が未実施となったために、未使用分を生じた。次年度使用額は、研究計画の進度に応じて、関係資料の購入や訪問調査の調査旅費等にあてることを予定している。
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