2022 Fiscal Year Research-status Report
戸籍法と嫡出推定制度ーー身分登録の実体法上の基礎としての実親子法の観点からーー
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21K01251
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小池 泰 九州大学, 法学研究院, 教授 (00309486)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 家族法 / 実親子関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、無戸籍児への対応としてなされた令和4年の親子法改正(法律第102号)の内容を中心に検討を進めた。結論からいえば、改正法は、嫡出否認制度を主な対象とするものであり、無戸籍問題への対応としては十分といえない。 無戸籍児が生じるのは、嫡出推定を定める民法772条の適用回避策のうち最も極端なものとして、出生届そのものをしない方法が選択された結果である。他方、従来、判例法による772条の解釈論として、「推定の及ばない子」という同条の適用回避の法理が形成されており、無戸籍児対応としては、この法理に着眼するのが自然である。これは、本法理の出所が出生届に係る戸籍実務の取扱いにある点からも、説得力を持つ。しかし、今回の改正法は、本法理には着眼したものの、内容にとりこんだのはその半面でしかない。すなわち、この法理は、嫡出推定制度と嫡出否認制度の双方に関わるものと位置づけることが可能であり、それぞれ、嫡出推定及び嫡出否認の制限のそれぞれが過剰であるという認識を基礎に持つ。今回の改正は、このうち、嫡出否認の制限の緩和によって後者に対応したにとどまった。とはいえ、改正の過程では、推定の過剰の点に着眼した案も検討されていた。「出生の届出において嫡出推定の例外を認める制度」がそれであるが、実現には至らなかった。 しかし、戸籍実務に由来する解釈論をより精緻なものとする余地は十分にある。学説史の上でも、この法理及びその基礎にある戸籍実務を実体法の問題として受け止め、実親子法の成立ルールの見直しを行う取組みは、いわゆる300日問題が社会的注目を集めた2008年をさらに50年以上遡る頃から議論されていた。 今回の改正法は、「推定の及ばない子」の解釈論の実体法上の検討を深化させる必要性を改めて突き付けた者といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、令和4年親子法改正の検討から、出生の届出の際に裁判外での事実証明を利用する可能性に関する課題を明確にし、あわせて、戸籍実務で形成された772条の適用回避法理の実体法的基礎付け可能性を、当時の議論から再検討した。とりわけ、当時の議論では、実親子関係はなるべく血縁(遺伝)による親子関係に対応させるべきという事実主義的発想から、嫡出否認制度の回避を柔軟にする試みに着目した。他方、今回の改正法では、そうした事実主義への批判が基調にあり、とりわけ、親子という身分関係の早期確定の要請が重視されていることも明らかとなった。 以上から、戸籍実務の基礎となる実親子法の成立・否定ルールを検討する際に考慮すべき原理・原則が析出されて、最終年度に検討すべき課題が明確になった点で、本研究の進捗状況は概ね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、従来の戸籍実務において認められてきた、裁判外での事実証明による772条の適用除外について、実体法的基礎付けの可能性を精緻化する作業を行う。その際、ドイツにおいて公表された実親子法の改正に係る討議草案についても、それが同性婚カップルが設けた子の親子関係に対応するというやや特殊性を有する点に留意しつつ、その基礎にある実体法的基礎付けと諸原理の衡量の仕方に着目して、比較検討する予定である。
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Causes of Carryover |
アマゾン発注図書の入荷が年度内になされなかったため。
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Research Products
(2 results)