2021 Fiscal Year Research-status Report
子の監護の扶養法的評価に関する基礎的研究―共同養育を視野に入れて
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21K01256
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
野澤 紀雅 中央大学, 日本比較法研究所, 客員研究員 (60133899)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 世話扶養 / 共同養育 / 扶養義務 / 養育費 / 親責任 / ドイツ法 / スイス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、離婚後に監護親がなす子どもの世話と扶養料(養育費)負担の関係を、ドイツ法及びスイス法との比較研究によって明らかにすることにある。 ドイツ民法には、未成年の子を世話する親は、原則として、監護・教育によって自己の扶養義務を履行するとの規定がある。この規定により、子の扶養料は非監護親の収入・資産によって査定され、離婚後に子を世話する監護親は金銭的な扶養義務は負わないことになる。この場合、監護親の世話と非監護親の扶養料給付は同価値であると説明される。これは、母=監護者、父=扶養者という役割分担を前提として生成した原則であるが、離婚後の共同親権・共同養育に現れている役割分担の多様化に伴い、その適用範囲が学説・判例で議論されている現状にある。 一方、スイス民法では、父母が分担すべき子の扶養の内容に世話のための費用が加えられている。この規律では、子に対する世話が金銭に換算されて他の扶養需要とともに父母が分担するものと考えられる。世話の価値ではなく、価額を問題とするのであれば、監護の扶養法的評価に関して、ドイツ法とは違ったアプローチにより、子の世話(監護)を扶養料算定の要素として組み込んでいるといえる。 日本では、離婚後の父母は、資力に応じて扶養料を按分的に負担し、監護が扶養義務のレベルで評価を受けることはない。監護親は子に対する日常の世話に加え、その経済的費用の一部を負担している。ひとり親世帯におけるこのような二重負担は、父母の平等の観点からだけでなく、子の福祉の観点からも再考を求められている。 現在、日本でも離婚後の共同親権制の導入が検討され、両親双方が子の養育に関わる共同養育のあり方に関心が寄せられている。共同親権が子の監護についても父母の共同参加を促進するのであれば、なおのこと監護の分担と扶養義務の関係を明らかにしておく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1. 本年度の計画で参加を予定していたドイツでの学会が中止されたことから、海外出張による学会参加と、それに併行する研究者との意見交換は実現できなかった。そのため、ドイツ法を対象として以下の文献研究を行なった。 2.(1) 共同養育の実態研究 これについては、従来、外国での研究に依拠するものが多かったところ、「ドイツにおける家族モデル(FAMOD)」研究が公表された(FamRZ 2021, 729ff.)。この研究では、a.引き取り型モデル(別居親の下での世話割合が30%未満)、b.非対称的交替モデル(同30%~49%)c. 対称的交替モデル(父母ともほぼ50%)の各類型について、それが子の福祉に与える影響がいくつかの観点から分析されている。 (2) 判例の展開 ここでは、ドイツ民法1606条3項2文による、子の世話による扶養義務の履行、扶養料の免除が共同養育において認められるかどうかを検討した。あえて上記のモデルに対応させるなら、以下の立場が示されている。aではこの規定が適用され、世話する親は金銭的扶養義を負うことはなく、他方の親のみが扶養義務を負う。bは、面会交流の拡大と捉えられ、aに準ずるが、非監護親の扶養料算定にあたっては、所得階層の引下げによる負担軽減がありうる。cでは、上記原則は適用されないが、両親双方の合算所得により子の扶養需要が算定され、父母はその可処分所得により按分負担する。つまり、cモデルによって親の扶養料が免除されることはない。 (3)学説は、上記判例の見解を基本的に承認するものから、交替モデルでは父母とも金銭的な扶養義務はなくなると説くものまで、かなり多様である。各論者が前提とする養育モデルや、父母間の衡平に対する配慮の違いも背景にあると考えられる。 3.上記1.の理由により最新情報が得られなかったこと、及び2(3)の学説整理に時間を要しているため、当初の予定よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.2021年度の研究の成果として、ドイツにおける共同養育の実態、扶養法判例の展開、及び学説の現状を整理した論考を執筆し、所属研究機関の紀要に公表する。 2.渡航条件が緩和された段階で、ドイツを訪問し、本研究課題に造詣の深い研究者と現状と今後の展開について意見を求める。 3.2017年1月施行のスイス改正扶養法における世話扶養の算定方法とその理論的基礎について、文献研究を行なう。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた、第24回「ドイツ家庭裁判所大会」(2021年9月開催)が新型コロナウィルス拡大の影響により延期となったため、その参加に要する旅費の支出がなかった。
2022年度に、ドイツにおいて情報・資料収集のためドイツに出張することを予定しており、その際の費用に充当する。
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