2022 Fiscal Year Research-status Report
医師の治療義務の限界(ファーボ事件判決、パンデミック下のトリアージ基準の検討)
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21K01267
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
秋葉 悦子 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (20262488)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | トリアージ / 医療資源の分配 / パンデミック |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ロシアのウクライナ侵攻によって国際情勢が激変し、難民問題や物価高で医療資源が逼迫する中、イタリアでは限られた医療資源の衡平な分配がますます喫緊の課題になっている。それはコロナ禍で緊急の対応を迫られたトリアージの応用編でもあるが、ワクチンの分配の問題が明らかにしたように地球規模での対応が不可欠である。イタリア医学人文学の領域では、パンデミック以降、トリアージ、高齢者医療、包括的緩和ケア、AIの使用に関する国際倫理規則の策定作業が急ピッチで進められている。その最新資料として、テン・ハーフ=ペゴラロ「バイオエシックス、ヘルスケア、魂」(後掲)の解説を公表した。 (2)他方、イタリアでは医師による自殺幇助の合法化の可能性を認めたファーボ事件判決(2019年)を受けて、2022年2月に憲法裁判所が嘱託殺人罪の是非を問う国民投票の請求を却下、3月に下院が医師による自殺幇助の法案を提出する等の動きがあったが、6月に交通事故で12年間、身体麻痺の状態にあったカルボニ氏(44歳)が保健当局の許可を得て、医師の処方した致死薬を補助器具を用いて自ら服用するという、イタリア初の合法的自殺幇助の事案が現実に出現した。 (3)上述の現状を踏まえて、イタリア医学人文学は、医療資源を衡平に分配する市民の義務に焦点を合わせた議論を展開している。以下の遠隔会議に参加して情報収集と意見交換を行った。①「臨床倫理コンサルタントと医師の幇助による自発的な死の法案」(ローマ聖心大学生命倫理・医学人文学研究所、5月);②「生命のエンジニアリングの倫理学」(ローマ教皇庁生命アカデミー、9月);③「周産期緩和ケア」(同、12月);「人格に収束する:共通善のための新生技術」(同、2023年2月)。また、日本の医療機関や実務に従事する関係者を対象としたセミナー等(後掲)で講師を務め、情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年に引き続き、コロナ禍でイタリアへの出張はできなかったが、国内外の遠隔の会議やセミナーに参加して、情報収集や意見交換を行うことができた。 ロシアのウクライナ侵攻によって、戦後の国際法やEUの根本が揺らぐような事態に直面したことで、イタリアでは公的医療制度を保持するための議論に経済学や社会学が直接参与するようになった。筆者の専門は刑事法学であるが、経済学部に所属しているため、日本への示唆を探るための手掛かりを得やすい研究環境にある。 イタリアではカルボニ氏の事案が発生したことで新たな議論も引き起こされ、新たな情報と資料を得ることができた。それらはファーボ判決と同一の論理構造を採用した川崎協同病院事件判決との比較対照において極めて有益であり、日本の今後の議論に多大な貢献をなしうると思われる。現在、資料解読と分析作業を進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
可能な限り、ローマ/ミラノ聖心大学医学人文学研究所に赴いて、パンデミック後の医療現場の現状の実態調査を行いたい。また、昨年度予定していたミラノ大学医学部に新設された緩和ケア課程で新たに開発された医学教育プログラムについても実態調査と情報収集を行いたい。 最終年度であるので、これまでに収集した資料の解読と分析を行い、研究成果をまとめて公表したい。
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