2023 Fiscal Year Annual Research Report
医師の治療義務の限界(ファーボ事件判決、パンデミック下のトリアージ基準の検討)
Project/Area Number |
21K01267
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
秋葉 悦子 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (20262488)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 救命措置の放棄 / トリアージ / 医師による自殺幇助 / 治療中止 / 執拗な治療 / 事前指示 / 最善の医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)医師の治療義務の限界は二つの基準によって画される。患者の「自由意思」と「最善の医療」である。前者は自由意思の限定原理を持たない新自由主義体制下で、医師の自殺幇助を要求する権利にまで拡大した。後者はこの度のパンデミック下で、ワクチンや医療施設・専門職へのアクセス権など、医療資源の公正な分配を要請する地球規模の公的医療体制下で機能し、世界市民としての患者の義務や医療従事者の権利と義務が活発に議論された。 (2)後者の視点に立つと、医師の治療義務の限界をめぐる議論の本質的な問いは、限られた資源(先端科学技術、医療スタッフ)の最善の利用法にある。利用しうる先端科学技術をすべて用いることが最善でないことはもとより、イタリアではトリアージにおいても、早い者勝ちや支払い能力、年齢による序列付けではなく、最善の医療に照準を合わせた「臨床上の基準」によるべきことが明確にされた。 (3)パンデミック下での臨床現場の状況を把握するために、国内では医療従事者主体の研究会や倫理研修会、日本臨床倫理学会等において、イタリアの状況についてはローマで開催された生命アカデミー年次大会において、現地の医療従事者と情報収集および意見交換を行った。 (4)2017年の法律219号(インフォームドコンセントと事前指示に関する規範)、2019年242憲法裁判所判決(一定の条件下で医師の自殺幇助を認めたファーボ事件)、2022年憲法裁判所判決50(安楽死の国民投票を不許可)を総合的に解読すると、イタリアの医事法制は、患者の自由意思を尊重しつつ、人間の生命と傷つきやすさの最低限の保護の必要を明確にしたと結論づけることができる。それは、自由の条件として人間の生命の保護を明確にしたものであり、自由権の基礎にある生命の倫理的価値、最善の医療を目指す医の倫理が伝統的に堅持してきた価値を論証したものと言うことができる。
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