2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21K01273
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島並 良 神戸大学, 法学研究科, 教授 (20282535)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 知的財産権侵害 / 故意 / 過失 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、知的財産権侵害に基づく損害賠償において、侵害者の故意・過失がいかなる位置を現在占めているのか、そして将来占めるべきかを検討した。 具体的には、①損害賠償制度の果たす侵害抑止機能に着目しながら、知的財産法分野全般における故意・過失について、思想的歴史、正当化根拠といった基礎理論を検討し、②米国を中心に海外における知的財産権侵害における故意・過失の役割を明らかにし、③日本の特許法、著作権法、商標法等の解釈・立法における各要件の解釈・立法論を展開した。 その結果、現時点で次のような結論を得た。まず、侵害者の故意・過失が容易に認定される結果、損害賠償責任が事実上の無過失責任(厳格責任)として運用されている現在のあり方は、侵害の適切な抑止の観点からは維持されるべきでない。他方で、悪質な海賊版等の横行が社会問題化している現在、故意による知的財産権侵害と単なる過失によるそれとは質的に区別されるべきであり、故意侵害と過失侵害の効果に段階的な区別を設けるべきである。そして、故意侵害については、損害の填補賠償を越えた金銭的救済によって、侵害の抑止を図るべきであり、その具体的な手段としては、知的財産法が政策立法であることから、一般民事法にない侵害者利益の吐き出しはもちろん、さらには(諸外国にみられるいわゆる三倍賠償などの)追加的な賠償の途が拓かれるべきである。 本研究の最終年度となる2023年度には、コロナ禍で中断していた海外での研究会報告(11月、豪州マッコーリー大学)を行ったほかは、公表に至った関連業績はないが、現在、公的団体と協働して知的財産法を所管する官庁への意見書を作成中であり、また、執筆中の特許制度の基礎理論に関する書籍においても、本研究全体の成果が盛り込まれる予定である。
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