2021 Fiscal Year Research-status Report
Public Service and Policy Evaluation in the Post-Corona Era: Case Studies in Essential Work
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21K01311
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
山谷 清志 同志社大学, 政策学部, 教授 (90230599)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 圭多 神戸学院大学, 法学部, 准教授 (60755388)
湯浅 孝康 大阪国際大学, 経営経済学部, 講師 (20897095)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 政策評価 / ポストコロナ / エッセンシャル・ワーカー / レスポンシビリティ / アカウンタビリティ / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
「ポストコロナ時代の公共サービスと政策評価」の研究を始める出発点として、実態調査・データ収集を目的にエセンシャル・ワークに携わる人びとに直接調査して『地域を支えるエセンシャル・ワーク』(2021年4月ぎょうせい)を出版した。これは反響が大きく、さまざまなところから共同研究の申し出があった。例えば「公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)」、全国自治体労働組合(自治労)、日本女性学会の研究者、独立行政法人・国立女性教育会館(NWEC)に関係した研究者、「国際人権法の国内実施における自治体の役割と課題」(研究代表者・棟居徳子)などである。 この研究の出発点はもう一つあった。本研究の代表者・山谷清志が編著で刊行した『これからの公共政策学2 政策と行政』(ミネルヴァ書房2021年5月)であり、ここでは行政と政策が本来果たすべき責任はいかなるものであるかについて論じており、公務労働者の業務に対するプロ意識・倫理観(レスポンシビリティ)を認識することの重要性にふれている。 研究分担者の代表的な研究実績は以下の通りである。①橋本圭多「ジェンダー予算の理論と実際:社会的に公正な行政は可能か」『評価クォータリー』第61号、②湯浅孝康(2022)「ポストコロナ時代の行政管理のメタ評価―公共サービスの改善に向けて」『日本評価研究』22(1)、③鏡圭佑「組織再編成と行政責任」山谷清志編『政策と行政』ミネルヴァ書房、第9章である。研究初年度の2021年度は本研究の対象領域の確定(拡大)に務め、研究が向かうべき目標を明らかにした。それは以下の確認である。エセンシャル・ワークに関わる人びとの人権問題、ジェンダーの視点から考えるエッセンシャル・ワーカーの状況、これらに配慮しなかった行政改革、課題や問題を深刻化させた手法(指定管理者や会計年度職員制度など)とそれらの評価である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)」、全国自治体労働組合(自治労)、日本女性学会と独立行政法人・国立女性教育会館(NWEC)に関係した研究者、「国際人権法の国内実施における自治体の役割と課題」(研究代表者・棟居徳子)など、科研申請時には想定していなかった分野・研究者からの共同研究の申し出、著作の共同執筆依頼、労働組合からの講演依頼が多く、驚いている。小さな研究テーマだと考えていた自分の認識不足、視野狭窄、鈍感さを率直に反省する必要がある。 ここ四半世紀、日本のパブリックセクターが進め、それに関わる民間企業・NPOが実践してきた諸改革は、社会の現実との適切な関連性を失い、持続不可能になっているが惰性で続いている。この惰性を終えるためには、現場で使ってきた評価システムを見直す必要があると本研究は考える。かつて1970年代に社会問題に対する対策を考えて登場した政策評価(プログラム評価)は、日本では2000年代に業績測定を中心とした数字達成競争として定着したが、この競争が勘違いである事実が露呈している今、政策評価事態も見直しが必要である。 このようにエッセンシャル・ワーカー問題の深刻さが浮き彫りになるにつれ、見過ごされていた分野での課題や勘違いに気づき、研究の幅が広がり、研究の発想自体に深みが出てきている。新型コロナ禍だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻によって生じた経済的な問題がにエッセンシャル・ワーカーをさらに追い詰めている話も現場から聞く。深刻な社会課題に研究者としてどのように関わっていくのか。この古典的、伝統的な問題にまさか自分が直面するとは考えもしなかったので、予想外の喜びがある。実態を知り、それをさまざまな角度から検証し、歴史をふまえて本質を考える社会科学の基本を実践できることに、感謝している。これが当初の計画以上に進展していると考える理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
公共サービスを担う官公庁向けにどのような政策評価を考えれば良いか、この当初の問いが今も研究推進方向の中心にある。とくに新型コロナ禍が招いた社会の価値観の変化が、評価のあり方を見直す大きな契機になると思われる。すなわち、日本の公共部門を席巻した新公共経営(NPM)がめざす効率と節約を基準にする評価が、官公庁の冗長性を削り過ぎたので、緊急事態に対応しようとした官公庁の困難(人員不足)を招いたことはよく知られる。そればかりでなく、官公庁がその責任において対応すべき仕事自体が大きく増えた想定外の事態もあった。削る一方の評価が招いた体制では、緊急事態の膨大な業務に対応できず、人命に関わることもあった。そこで、新型コロナを経験したわれわれが今後、どのような評価を考えるべきなのかが研究のはじめにあり、エセンシャル・ワーク活動の現場について調査と研究を始めた。 ただし、研究を進める上で注意することが2点ある。第1は、社会課題の研究をする者が研究対象に深くコミットする場面で陥る問題として、研究者なのか社会運動化なのかわからなくなる困った姿がよく指摘される。これはエッセンシャル・ワーカー研究でも同じである。研究代表者・研究分担者もちろん、研究協力者ともこの点には留意する必要がある。データや資料を過大に誇張する、最初に結論がある調査を行う、研究対象におもねった表現になると研究倫理に抵触することになるからである。 第2の注意は、ポストコロナ時代の評価は何かである。日本で導入して普及した評価は業績測定で、これを総ての政策活動に当てはめてきた。現場活動が目標指標をどれぐらい達成したか、トップダウンで確認する統制方法である。これが現場の実情を見えなくした。求められるのは社会の多様な価値観を反映した、特定の価値観に拘泥しない調査に基づく評価であろう。2022年度はここに集中する。
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Causes of Carryover |
新型コロナが収まらず、予定した調査対象のエセンシャル・ワーク関連業務の方々が仕事に忙殺されて、現地調査やインタビューができなかった。また、学会活動もオンラインになってしまった。そのため、旅費をはじめとする各種の経費を支出できなかった。
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Research Products
(3 results)