2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K01329
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大久保 健晴 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (00336504)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 政治思想史 / 日本政治思想史 / 比較政治思想 / 蘭学 / 西洋兵学 / 福澤諭吉 / オランダ / 東アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、徳川日本における蘭学を主題に、17世紀から20世紀に至る西洋と東アジアとの間の学術の連鎖と、その背後に潜む権力構造の変容について、国際的な比較政治思想史の観点から解明することを目的とする。 1年目である2021年度は、7月にオンラインで開催された世界政治学会に参加し、セッション「GS05.07 Is There a Non-Western or a Neo-Nationalistic Political Theory?」において、東アジア政治思想史の視座から、研究報告を行った。そこでは、徳川後期以来の日本における西洋語の“republic”を巡る翻訳論争や、訳語「共和」が中国へと逆輸入された経緯など取り上げながら、西洋世界と非西洋圏、さらには非西洋圏相互の比較と連鎖の政治思想史研究の在り方について検討した。また、ラウンド・テーブル「GS05.10 Authors-Meet-Critics: Deparochializing Political Theory」において、コメンテーターをつとめた。 国内では、9月に開催された日本政治学会に参加し、セッション「太平洋と島々の政治思想――帝国・移民・人種(主義)」で討論者をつとめ、環太平洋における政治思想史研究の可能性について議論した。 さらに、研究論文「蘭学と西洋兵学―比較と連鎖の政治思想史―」(前田勉・苅部直編『日本思想史の現在と未来』)、「開国」(野口雅弘他編『よくわかる政治思想』)、「オランダ語で読む明治日本」(松方冬子編『オランダ語史料入門』)、書評論文「異説争論の際に事物の真理を求る 松沢弘陽著『福澤諭吉の思想的格闘―生と死を超えて』を読む」(『福澤諭吉年鑑』48号)を公刊した。加えて、「フィッセリング」「統計」「法学」「幕末の留学生」という四つの項目を執筆した『洋学史研究事典』が出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の研究成果は、大きく三つに区分される。 第一に、本年度はコロナ禍により、当初予定していたオランダでの資料調査が実現できなかったものの、しかしオンラインで開催された世界政治学会(International Political Science Association)に参加し、 海外の政治思想史研究者と積極的に意見を交わすことができた。そこでは、比較政治理論(theory)と比較政治思想(thought)の相違や、植民地支配及び帝国主義を前提とした一方的な知識の伝達ではない、双方向的なグローバル知性史(Global intellectual history)研究の可能性について討議を行った。 また日本政治学会では、アメリカ、日本、中国、南洋諸島、ハワイ諸島などからなる環太平洋を舞台に、人と物の移動と学識の伝播を通じて形成された政治思想と植民地論の様態について、学際的な視野から活発な議論ができた。 第二に、学術的な研究成果として、研究論文「蘭学と西洋兵学―比較と連鎖の政治思想史―」を公刊するとともに、松沢弘陽著『福澤諭吉の思想的格闘』に関する大部の書評論文を執筆した。とりわけ同書評論文では、松沢氏の近著の内容を振り返りながら、(1)「明治啓蒙思想から自由民権運動へ」という政治思想史叙述の問題点、(2)福沢諭吉の思想形成と近世蘭学、ならびに儒学との関係性、(3)福澤における「異説争論」や「籠絡」を鍵概念とした政治観とその背景に存在する真理観、という大きく三つの論点について検討を加えた。その上で、比較政治思想史の視座から、福澤諭吉研究における新たな課題について問題提起を行った。 第三に、『よくわかる政治思想』、『オランダ語史料入門』、『洋学史研究事典』に論稿を執筆することにより、本科研費研究の成果を、研究者だけでなく、広く一般の読者の方々に公開することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2年目にあたる2022年度は、オランダに赴き、18-9世紀オランダ政治思想、政治史、科学思想、ならびに近世日本の蘭学に関する史料調査を実施することを計画している。徳川期の蘭学者が触れたオランダ語文献は多岐にわたり、さらに手書きの一次史料を含め、文書のデジタル化が進んだ今日においても、現地での史料調査は不可欠である。 そこでは第一に、ライデン大学図書館やハーグ王立図書館を訪れ、宗教と科学の二元論や実証主義の台頭、進化論の影響など、徳川末期から明治初年にかけて日本の蘭学者・洋学者が触れた、同時代オランダの学問状況について検討を行う。 第二に、オランダ国立軍事博物館(Nationaal Militair Museum)やオランダ戦史研究所(Nederlands Instituut voor Militaire Historie)の図書館(Defensiebibliotheken)に所蔵される、18世紀末から19世紀におけるオランダの兵学書を広く渉猟し、徳川後期日本における西洋兵学論の思想的背景を解明する。もちろんその中には、オランダの学者や将校が執筆した書物だけでなく、彼らがオランダ語で翻訳したプロイセン由来の軍事書なども含む。 第三に、オランダ国立公文書館を訪問し、同図書館に所蔵される、明治初期に日本を訪問したオランダ技師達が書き残した日記や手紙などをはじめとした一次史料の調査と解読に従事する。 またこれらの作業と並行して、長崎歴史文化博物館や津山洋学資料館に赴き、国内における史料調査を実施することを予定している。 そして前年度に引き続き、国内外の学術会議やシンポジウムに積極的に参加し、本科研費にも基づく研究成果を広く世界の研究者や一般の人々に向けて公開するとともに、討議を通じて、さらなる研究の質的向上につとめる。
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Causes of Carryover |
当初、2021年度にオランダで史料調査を実施する計画を立てていた。しかしコロナ禍によって、残念ながらオランダを訪問することができず、史料調査を実現できなかった。 2021年度に実施できなかったオランダでの史料調査は、2022年度以降に行う予定である。
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Research Products
(7 results)