2021 Fiscal Year Research-status Report
公示期間におけるインターネット情報への選択的接触が政治意識におよぼす影響
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21K01340
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
白崎 護 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (30362560)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 選択的接触 / フェイクニュース / 民主主義 / 世論操作 / 対人環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年9月には、『研究論集』114号に「現代アメリカにおける選択的接触の過程と影響 -インターネットを中心として-」と題した査読付論文を公表した。また2022年3月には、「政治意識へおよぼす対人環境とメディアの影響」と題した査読付論文を『研究論集』115号に公表した。前者はアメリカにおけるインターネット上の選択的接触の過程と影響を考察する点で、日本におけるインターネット上の選択的接触を考察する本研究(科学研究費補助金基盤研究(C)に基づく研究)に有用な仮説や比較対象を提供する。また後者は、メディアの影響を抽出する上でコントロールせねばならない対人環境の影響を考察する点で、本研究が予定する社会調査項目の設定に有用な知見を提供する。以上が、論文に関する研究実績である。 次に、口頭発表に関する研究実績を記す。2021年6月には、2021年度日本公共政策学会研究大会において「インターネットが政治意識に影響する条件 -制度と環境-」と題した発表を行った。防衛省の依頼に基づく発表であり、有事の際の外国勢力によるメディアを通じた日本国内の世論操作の可能性を扱う。これら世論操作はインターネット上の選択的接触の傾向を利用する場合が一般的であり、本研究の社会的有用性を念頭に置いた調査を進める上で必要な知識と言える。引き続き、2022年3月には藤代裕之編著「フェイクニュースの生態系」(青弓社)に関して、日本メディア学会ネットワーク社会研究部会の依頼に基づき著者臨席のもと書評を行った。インターネットを通じて流布するフェイクニュースの実情、および監視団体や各メディアによる対策を検討した上、フェイクニュースを取り締まる制度の実現が困難である点を考察した。選択的接触を通じたフェイクニュースの拡散過程を検討する点で、やはり本研究の社会的有用性を高める視座を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定は、2021年の総選挙または今年の参議院選挙を対象とした社会調査の実施であった。同年4月に始まる新型コロナウイルス感染症の再拡大を得て資料の取得が遅れたために、総選挙を対象とした調査は見送らざるを得なかった。他方、2022年7月を予定する参議院選挙での社会調査に向けて十分な準備期間を得た。その結果、すでに公示日前調査と投票日後調査の双方に関する質問項目の整理を終え、詳細な調査計画に基づく学内の倫理審査も通過した。調査終了後の研究期間も十分に確保されているので、「おおむね順調に進展している」との判断を下した。 加えて、仮に2021年度の調査であれば新型コロナウイルス関連の質問項目が主体となっていたが、ウクライナ戦争の勃発により国防・物価・原子力など、これまで日本人が正面から捉えることを避けてきた争点に対する積極的な議論が生じている。この機を捉え、参議院選挙での調査では、これら「古くて新しい」争点を中心とした調査項目を設定できた。国防や原子力は有権者の立場が二極化しやすい争点であり、したがって選択的接触の影響が強く表れると期待される。これらの争点は、マスメディアを通じた有権者による現状の把握が一般的である。したがって当該争点の顕在化は、従来のメディア研究の定石に従い、マスメディアおよび対人環境とインターネットの相互作用に対してもあらためて留意する契機ともなった。
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Strategy for Future Research Activity |
選挙情報への選択的接触の結果として生じる政治意識の分極化を捉えるために、公示期間のインターネット情報への選択的接触によって影響が生じる政治意識と影響過程を解明する。インターネットでの選挙情報の収集時、「与党を支持する傾向のサイトと、それ以外のサイト(野党を支持する傾向のサイト、または中立のサイト)の双方を閲覧した有権者(選択的接触が生じない者)」と、「主に与党を支持する傾向のサイトを閲覧した有権者(選択的接触が生じた者)」に関して、公示期間前に抱いていた政治意識に生じる変化を見ると、「前者では自身と異なる意見への寛容性が向上する一方、後者では寛容性が低下する」との仮説を検証する。なお、「サイト」は党の公式HPやソーシャルメディアのみならず政治情報を含むサイト一般(ニュースサイトや個人運営のサイトなど)を含む。調査会社のモニタのPC・スマートフォン・タブレットなどを通じた公示期間における各サイトの閲覧回数の把握に基づき、データの客観的確度を増す。あわせて、政治意識に対する影響力が強いマスメディアへの選択的接触の影響を解明する。 2022年参議院選挙の公示日直前と投票日直後において調査会社のモニタより抽出した約1000名の有権者(関東・関西在住)にインターネットでパネル調査を行い、2度の調査結果の比較に現れる政治意識の変化が選択的接触の有無に応じて異なるか否かを調べる。計量分析の方法は、「二重の差」に基づく傾向スコア法である。傾向スコア法は、実現しうる複数の状況に関して、実現しなかった状況が実現していた場合の結果を回帰分析に基づき推定する。したがって、実現した状況の結果と仮想の状況の結果を比べると、実現した状況の成果を評価できる。本研究は、選択的接触の有無という2種のメディア接触状況を設ける。つまり、質問に対する公示期間前後の回答の「差」が、2種の接触状況の間で異なるか否かを調べる。
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Causes of Carryover |
2021年の総選挙、または2022年の参議院選挙を調査対象とする予定であった。2021年4月に始まる新型コロナウイルス感染症の再拡大を得て、予定していた資料の収集などが遅れたので、2022年参議院選挙を調査対象とすることとなった。すなわち、最も金額を割く社会調査委託費が2022年度に繰り越された。2022年度において、なるべく大きな標本規模を得るために残額全額を社会調査委託費に投じる予定である。
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