2021 Fiscal Year Research-status Report
拡大核抑止をめぐる国内政治と同盟外交:冷戦期・日本の実証分析とその今日的含意
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21K01342
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
黒崎 輝 福島大学, 行政政策学類, 教授 (00302068)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 冷戦史 / ニュークリア・ヒストリー / 国際関係史 / 日米関係 / 日本の核政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究全体の目的、すなわち米国の拡大核抑止に対する日本の立場や対応に国内政治が与える影響や影響を与える過程(因果メカニズム)の実証的な解明のため、 冷戦期に遡り、東アジアの米国の非核同盟国――韓国と台湾――との比較の視点から、米国の拡大核抑止に対する日本の立場や対応の実態を明らかにすることをめざした。そのために国内で史料・文献調査を行い、その成果に基づいて研究論文のドラフトを作成した。この研究論文は、2023年に刊行される英文共著書に掲載される予定である。 この研究論文では、冷戦下の1960年代から1970年代の時期に焦点を合わせた。その間、米国と同盟を結び、その「核の傘」に入った日本、韓国、台湾は、非核保有国の地位にとどまった。しかし、日本と韓国・台湾は非核保有国として異なる道を歩んだ。日本は「核の傘」の下で非核三原則を堅持しつつ、原子力の平和利用に専心した結果、再処理技術に基づく核兵器開発能力を獲得・保持した。その一方で韓国と台湾は核兵器開発計画を決定し、その実行に着手したものの、米国からの圧力により核兵器開発計画を放棄し、民生用でも再処理能力を保持することを封じられた。同論文では、①国内政治(政党政治と世論)、②安全保障環境、③民生用原子力開発の展開、④米国の核不拡散政策の進化、という4つの要因に着目することにより、上記のような日本と韓国・台湾の核政策の展開や帰結の違いを比較の視点から説明することを試みた。 従来日本の核政策はNATOに非核同盟国との比較の視点から論じられることが多く、それが東アジアの米国の非核同盟国との比較という視点から体系的に論じられることはなかった。その意味で同論文は新たな視点から日本の核政策を捉えなおそうという試みである。また、英文共著書に掲載されることにより、海外での日本の核政策に対する理解を深めることにも寄与すると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展していると考える理由として、研究計画書に記したとおり、東アジアの米国の非核同盟国である日本と韓国、台湾の核政策の比較研究の成果を研究論文としてまとめることができたことが挙げられる。コロナ禍という状況もあり、米国での史資料調査は見送ったため、史資料調査は国内でしか行えず、米国政府文書の調査の面では遅れが生じたといえる。結果的に上記の論文の作成の大きな障害にはならなかったものの、研究計画全体の遂行という観点からみると、次年度以降で遅れを挽回する必要がある。その一方で国内での史資料調査の成果に基づき、本研究全体の分析視角や、本研究の今日的な意義に関する検討作業を進めることができた。その成果は広島大学平和センター主催の研究会にて「拡大核抑止をめぐる日本の国内政治の変容とその政策的含意」という論題で発表した。また、本研究の分析視角に依拠して英文論文の書評を作成した。同書評はH-diploでオンライン公開された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度以降も当初の研究計画に沿って研究を遂行する予定である。令和4年は1950年代後半の米国の拡大核抑止への日本の立場や対応に関する事例研究を行う。同年9月にドイツのベルリンで開催予定の国際会議に招待されており、その事例研究の成果は同会議に提出するペーパー(英文)としてまとめる。会議で海外の研究者からフィードバックを得ることにより、研究成果の公開に向けてペーパーをブラッシュアップする。また、新型コロナウィルス感染症問題をめぐる国内外の動向次第という面もあるが、日本国内のみならず米国でも史資料調査を実施することにより、研究の推進を図ることをめざす。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた大きな理由は二つある。一つは物品費で購入予定であったノートパソコンの購入を次年度以降に先送りしたこと、もう一つは論文の英文校正サービスを利用しなかったことである。前者は新型コロナウィルス感染症問題で海外渡航の目途が立たなかったことが主な原因である。後者は作成した論文が掲載される英文共著書の編集者によるドラフトのチェック後に、英文校正サービスを利用することにしたためであり、令和4年度中に利用する予定である。
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