2021 Fiscal Year Research-status Report
北極海ガバナンスの制度間調整ー地球温暖化への危機対応
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21K01352
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
都留 康子 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (30292999)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 南極 / 南極条約 / CCAMLR / 環境 / 環境保護区 / ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研は北極をテーマとする研究であるが、同じ極地として、海洋であるか大陸であるかの本質的な違いを越えて、南極との比較検討は不可欠であることから、2021年度は、南極条約を中心とする南極ガバナンスに着目し、南極条約の成立プロセス、南極ガバナンス全体の課題を考察した。 南極は1940年代には、アルゼンチンとイギリスの間で一触即発の危機があるなど、紛争と無関係の地ではなかった。米ソの厳しい軍拡競争が世界大で展開される一方、地球観測年をきっかけとした科学的協力関係が南極では促進され、アメリカが音頭を取る形で、南極条約の交渉が開始された。米ソ冷戦構造の中にあって、国連海洋法条約の国際海峡の軍艦航行規程など、利害が一致するところでは、協調関係が見られたことは良く知られているが、南極は、米ソにとって死活的な領域ではないことから、逆に紛争地になることを怖れ紛争の地にしないという両者の暗黙の了解があったと考えられる。この条約は日本を含む12か国を原署名国として1959年に成立し(1961年発効)、領域主権を問うことなく今日までガバナンスの根幹である。 資源ナショナリズムの高まる1970年代、そして環境問題への国際世論の高まりをうけて、南極条約で立ち上げられた南極協議国会議(ATCM)は、取り組む課題を広げていった。1980年には、「南極海洋生物資源の保存に関する条約」(CCAMLR)を採択(1982年発効)、また、未発効の「南極鉱物資源活動規制条約」を昇華させる形で、「南極条約環境保護議定書」を1991年に採択した(1998年発効)。 このように複数のレジームにより構成される南極ガバナンスであるが、ATCMについては、閉鎖的な組織であるとの批判も強く、その全会一致のプロセスにも環境保護区の合意を困難にしている現状があり、喫緊の地球温暖化問題への取り組みなど、国際公益の実現が問われている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍で、計画書で予定していたノルウェーのナンセン研究所の訪問などが実現できず、北極それ自体については、NGOや北極評議会のサイト、論文調査などに頼らざるを得なかった。 一方、比較検討の対象とした、南極については、二つの論文を執筆することにより、資料の収集から分析へと進展させることができた。ただし、日本の歴史視点からみた南極については、コロナ禍で日本の外交史料館の閉館期間が長く、利用再開後も予約利用人数が限定されていたため、資料収集の点で今後に課題を残した。しかし、今回、歴史的資料の存在は確認でき、今後、日本の極地政策について更なる検討の余地が十分あることがわかった。 また2021年11月には神戸大学極域協力センター主催のシンポジウムにオンライン参加をしたが、オンラインのデメリットで、情報交換などが十分に行えたとは言えなかった。しかし、継続して「南極科学と国際動向を考える研究会」での活動を行っており、極地研究所との関係なども構築できている。2022年度に向けての準備は十分できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の南極についての研究を比較の対象としながら、今年度は再度、北極ガバナンスの問題について検討を行う。特にここで重要となってくるのは、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を経て、すでに存在する北極ガバナンスを構成する様々な制度がどのように変化をするかという問題意識である。南極が、氷の陸地であり、環境問題としての共通認識が成立していると考えられたのに対し、北極の場合は、氷の融解によって、氷に閉ざされていた海に新たな航路の可能性が上昇している。ここに北極圏の国家ではないが中国も海洋進出とともに大きな関心を示している。氷がなくなれば、アメリカ・カナダとロシアが地図上でもむき出しで対峙するようになる。現段階で、ウクライナの問題や、地政学的な影響が北極海まで現れているとことは確認できていないが、今後、既存のガバナンスがどのような変更を迫られるのか、それを拒むだけの盤石な何かがあるのかを考察していく必要がある。言ってみれば、地政学やパワーポリティックスが、北極での共通利益やガバナンスを凌駕するのかという問題である。 なお、秋の国際法学会での報告を予定しており、これを本研究全体の中間報告として、位置付けている。また、10月にはアイスランドレイキャビクで第15回極域法シンポジウムが開催されることから、対面での参加を検討している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍にあり、海外での資料収集ならびにシンポジウムへの参加が見送られたこと、また国内出張も大学では奨励されていなかったことから、旅費として計上していたものを使うことができなかった。2022年度については、アイスランド・レイキャビクや神戸でのシンポジウムが対面形式で開催されることが期待され、その旅費として使用する予定である。なお、論文執筆にあたっては高額の洋書を購入も必須である。
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