2021 Fiscal Year Research-status Report
社会的排除・包摂をめぐるEUの取り組みへの評価:女性の就労支援に着目して
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21K01353
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Research Institution | Takushoku University |
Principal Investigator |
細井 優子 拓殖大学, 政経学部, 教授 (60638633)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | EU / 社会的排除 / シティズンシップ / ワークフェア / 女性の就労支援 / ケア労働 / 福祉制度 / ジェンダー平等 |
Outline of Annual Research Achievements |
EUは社会的排除という問題への取り組みとして、従来の給付金の支給(ウェルフェア)から職業訓練を通じた就労促進による社会への包摂(ワークフェア)へ転換を進めている。その中でも、本研究では特に就業率を上げることによって女性の社会的包摂をはかろうとするEUの施策に注目している。なぜなら、ケア労働などジェンダー平等が不完全な状態のまま、労働市場における女性の役割を拡大させることは女性の負担を増やし、疲弊させるリスクを内容しているからだ。 初年度である2021年度の研究成果として、第1に、社会における多様性の重要性(本研究課題では特に男女平等社会を実現すること)のメリットを明らかにした。さらに、EUの本質を形成するのは人権、自由、民主主義、平等といった価値であり、EUは近年、ジェンダー平等の促進が平和、安全保障、経済的繁栄および持続可能な発展の鍵を握るとしてEU政治の優先課題に位置付けていることを明らかにした。第2に、世界経済フォーラムによる男女格差を示すジェンダーギャップ指数や列強議会同盟(IPU)による女性の政治参加度を示すデータなどをベースに、EU加盟国を「ジェンダー平等」の達成度に「高」「中」「低」に大きく分類した。「高」に分類される北欧諸国は、福祉制度としては国家の役割が大きい社会民主主義レジーム、女性の政治参加では1980年代にジェンダー・クオータ導入の効果が現れており、「中」に分類されるドイツやフランスは、福祉制度としては家族・職域の役割が大きい保守主義レジーム、女性の政治参加についてはそれぞれ1990年代以降にジェンダー・クオータ、2000年代以降にパリテの効果が現れている。また、「高」グループでは、選挙制度として小選挙区制ではなく比例代表制を採用しているという特徴があり、そのことも女性候補者を立てやすい状況を作っていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、世界経済フォーラムによる男女格差を示すジェンダーギャップ指数や列強議会同盟(IPU)による女性の政治参加度を示すデータなどをベースに、EU加盟国を「ジェンダー平等」の達成度に「高」「中」「低」に大きく分類する作業を行った。さらに福祉制度(社会民主主義レジーム、保守主義レジーム)やジェンダー・クオータ導入の状況、選挙制度(小選挙区制、比例代表制)に照らし合わせて、「高」グループとして北欧諸国、「中」グループとしてフランス・ドイツと分類することに合理的な説明が可能となった。しかし、「低」グループの分類については、EU加盟国として歴史が長い南欧諸国までを研究対象とするか、第5次拡大により加盟国となった東欧諸国まで含めて研究対象とするかについて、結論を保留している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究計画の遅れの原因にもなっている「低」グループの分類を続ける代わりに、ヨーロッパの「高」グループや「中」グループとの有意な比較対象として、EU加盟国ではないが、福祉制度として自由主義レジームに分類されるアメリカまたはイギリスを研究対象とすることを検討する。アメリカとイギリスの社会的弱者に関する政策は欧州諸国よも大きく「ウェルフェア」から「ワークフェア」に触れており、両国における福祉と就労支援の関係は「就労が給付の条件」になっている。それに対してEUでは就労支援は「雇用可能性を高めること」により重点が置かれており、EUの「ワークフェア」は「アクティベーション」とも表現されアメリカやイギリスの「ワークフェア」とは区別される。このようなことを明らかに示すためにも、EU加盟国の分類にあたり「低」グループの代わりに比較対象としてのアメリカとイギリスを置くことを検討する予定である。 同時に、2022年度は上記の分類表にケア提供者、女性就業率、出生率等を加味しながら、より精度の高い類型を完成させていく予定である。
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