2022 Fiscal Year Research-status Report
生命科学技術による国際秩序変容の分析:生体情報を用いた移民管理の普及を事例として
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21K01367
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中山 裕美 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (90634014)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 生命科学技術 / 国際秩序 / 人の移動 / ID政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、生命科学技術の利用が人口移動および関連分野で構築されてきた既存の国際秩序に与える影響を解明することである。具体的には、1)人の移 動の管理への生命科学技術の利用がどのような経緯で進められ、どのように国家主権を強化しているか、2)その効果がどのように主権国家体制を変化させてい るか、3)その結果として様々な領域に存在する既存の国際秩序にいかなる影響を及ぼしているかを分析することを目指す。 当初研究計画では、初年度から2年度にかけてMIDAS導入国の選定過程、導入に関与したドナー国の行動を分析することとしていたが、MIDASの設置に与える外的要因(ドナー)のみならず内的要因(国境ポストの位置、環境、国境を越えた往来の多寡)を調査する必要性があるとの認識に至り、リサーチアシスタントを雇用し、国境ポスト設置状況の調査を行った。その結果、自然環境や紛争の影響により、国境ポストの分布状況に大きな差異が見られることがわかった。また、本研究は国境を越えた移動に対する生命科学技術利用に焦点を当てたものではあるが、個人の管理への技術利用という点においては国民を対象としたID制度の状況と一定程度連動するとの理解から、アフリカ諸国におけるID制度の状況、とりわけ生体認証技術の活用状況の調査を行った。その結果、アフリカ諸国の複数のカードで2010年代半ば頃からIDカードへの生体認証の導入が始まったことがわかった。また世界銀行などの援助機関がIDカード発行を援助戦略の一環に位置づけていることや、選挙時にIDカードの利用が行われるなど、ID制度が開発援助や民主化政策などと密接な関係を持つことが示唆された。これらの新たに得られた知見に基づき、現在、国境管理への生命科学技術の導入に関する内的要因と外的要因の解明を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では次年度までに国境管理への生体認証導入に関する先進ドナー国の影響力の分析を進める予定であったが、内的要因の分析および国民に対するID制度の実態を把握することが本研究計画の遂行にとって不可欠であることが明らかとなったため、今年度はその調査を優先して実施した。そのため、先進ドナー国の動機の解明にはいまだ着手していない点において、研究にやや遅れが生じている。一方、今年度行った調査によって、MIDAS導入国の国境ポストの設置状況や周辺国との国境を越えた往来の状況、また国内におけるID政策の状況などの内的要因が把握できたことは、外的要因を検討するうえで非常に有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
MIDAS設置に関わったドナー国を複数選定し、国内に置けるID政策推進への関与状況なども考慮に入れつつ、MIDAS設置国と関係性の整理を進め(移民の送出・経由関係を含む)、国家間関係の動態を明らかにしていく。その際、IOMとドナー国の関係性の変化をも視野にいれることで、ドナー国側のMIDAS推進の動機を複合的に解明していくことを試みる。
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