2023 Fiscal Year Research-status Report
The Transformation of Conflicts / Wars and Japan's Security: Focusing on the Case of the Former USSR
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21K01373
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (30348841)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ロシア / ウクライナ / 旧ソ連 / ハイブリッド戦争 / ナゴルノ・カラバフ戦争 / 未承認国家 / 情報戦 / 経済安全保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、戦争の形が変わったが、それは、正規戦と非正規戦を組み合わせた戦争の形である「ハイブリッド戦争」に代表される。ハイブリッド戦争は、2014年のロシアによるウクライナのクリミア併合で、世界の注目を浴びるようになり、現代の脅威として強く認識されている。日本並びに世界の安全保障を考える上でも、ロシアの外交政策を考える上でも、ハイブリッド戦争は重要な検討材料であり、まさに今の世界を総合的に考える上で不可欠な要素となっている。そこで、本研究でもハイブリッド戦争の外交的意義と軍事的意義の両面から、その実態の解明と対抗策の検討に力を入れてきた。 だが、2022年2月以降は、「ウクライナ戦争」が現在進行形かつ最先端のハイブリッド戦争の実例として認識されるようになり、同戦争を現在進行形で分析することも急務となり、ウクライナ戦争を中心に検討を進めてきた。 その一方で、2023年にはナゴルノ・カラバフがアゼルバイジャンの「特別軍事作戦」によって、たった1日で降伏し、長かった同戦争が完全に終結するという大転換があった。しかし、戦争が終わっても、和平交渉は難航しており、戦争終結と平和が「イコール」でないこともまた改めて明確になった。 その中で新たな視点がウクライナ戦争は旧ソ連全体で見なければわからないという視点である。ロシアが多くの経済制裁を乗り越えている背景には、旧ソ連諸国との関係、特に経済関係や労働移民などの要素が極めて大きく、また旧ソ連諸国で起きている多くの戦闘や緊張もロシアの影響が多く反映されている。つまり、ロシアは経済と「脅し」によって旧ソ連諸国との関係を維持しつつ、戦争を継続している。 他方、中国、トルコなどの影響力の高まりもまた事実であり、トルコの影響力拡大の背景には「ドローン兵器」で軍事大国になったこともある。紛争・戦争の変容は、国際関係のあり方にも影響を与えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画立案時には、ウクライナ戦争やナゴルノ・カラバフ戦争終結は全く想定されていなかったため、研究計画と実際に進めている研究の相違は大きいものの、むしろポジティブな変更であり、当初想定されていなかった新しい要素が多く加わり、研究の射程がより重層的になり、厚みも増している。 特に、2023年度は他資金も用いて、旧ソ連諸国6カ国(アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、ジョージア、タジキスタン、トルクメニスタン)やロシア周辺国(トルコ、フィンランド、ポーランド)でも調査ができ、ハイブリッド戦争の実像によりリアルに踏み込むことができた。また、ロシアからの亡命反体制派の人々とも日本や海外出張などの折に関係を構築し、ロシアの内実にもより迫ることができた。 2023年度に新たに明らかにできたことは、第一にウクライナ戦争は旧ソ連全体を見なければわからないという点であり、ロシアは経済力や「脅し」を用いて、旧ソ連諸国の事実上の支えを得ながら継戦能力を維持しており、それと関連して、ロシアが旧ソ連諸国の緊張を利用していることもあり、多くの紛争や潜在的問題の緊張が多く表面化している。第二に、ドローン兵器が大きな力を持つようになっており、同兵器によって軍事大国にもなれるという事実が生まれていることであり、その実例としてはトルコやイランが挙げられ、ドローン大国になろうとしている国も増えているという実情がある。 筆者はこれら新しい発見のみならず、継続的に行なってきた研究成果を論文やメディアなどで多数発表しており、また、政府や議員向けのブリーフや報告書提出などで政策形成にも貢献している。さらに、多くの大使館からも定期的なブリーフや意見交換を依頼されているほか、某政府の政策形成にも関わるなど国際的にも研究成果によって貢献をしている。 これらのことから、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はウクライナ戦争によって、研究の内容が変わったが、新たな現実の中で、現状分析とこれまでの蓄積された研究の再考の両方の作業を並行して進めるとともに、ウクライナ和平およびそれに必要な国際環境についても検討し、政策提言ができるようなレベルにまで高める。 現状分析については、引き続きウクライナ戦争の分析を進めつつ、2020年に再燃・停戦していたものの、23年9月の「特別軍事作戦」により、事実上終戦となったナゴルノ・カラバフ戦争についても、アルメニアとアゼルバイジャンの和平プロセスについても検討を進める。加えて、世界の不安定状態はさまざまな点で連関していることから、旧ソ連以外の世界情勢にも目を配り、マクロの動きとミクロの動きを連関させながら、より包括的な分析を進める。 とはいえ、旧ソ連地域をケースとしているため、まずは旧ソ連地域での現地調査や現地研究者との議論(オンラインも活用)などを中心に分析する。特に、昨年の研究で明らかになったように、旧ソ連諸国の存在によってロシアは継戦能力を維持できており、旧ソ連諸国とロシアを繋ぎ止めている鍵が経済とロシアによる脅迫だということだが、それらのポイントについては、今年度も重点的にケーススタディを積み上げてゆく。 また、ウクライナ戦争の長期化は、ウクライナの状況をより深刻にするだけでなく、世界にとっても、日本にとっても安全保障のリスクとなる。そのため、ウクライナ和平、そしてロシアの継戦能力を喪失させるための制裁に実効性を持たせるための国際協力、強制力・実効性のある国際法違反や人権侵害への処罰などについても検討し、戦争の早期終結と今後の戦争予防の方策についても提言できるように検討を進める。 その際、これまで以上に、出来うる限りの海外での現地調査、より多くの海外のシンクタンクや研究者との連携を深め、より国際的に汎用的な研究となるように心がける。
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Causes of Carryover |
昨年度、別資金を使って研究をした部分が多かったため、繰越が生じた。 繰越分については、今年度の使用額と合わせて海外出張に充当する予定である。 何故なら、最近の円安および燃料価格高騰、新型コロナウイルス問題後の国際フライト価格の異常な高騰などが相俟って、海外出張費が本研究を開始する前に見積もっていた費用では全く足りなくなってしまっているからである。
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Remarks |
未公開(公開不可)の日本政府向けないし某外国政府向け政策提言、分析レポートなども多数ある。
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Research Products
(20 results)
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[Journal Article] 解題2023
Author(s)
廣瀬陽子
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Journal Title
藤雅俊・上田篤盛『情報戦、心理戦。そして認知戦:能動的サイバー防御の強化』並木書房
Volume: ---
Pages: 381-389
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