2022 Fiscal Year Research-status Report
Wealth inequality and optimal taxation
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21K01385
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中嶋 智之 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (50362405)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 最適課税問題 / 私的情報 / プリンシパル・エージェント問題 / 連続時間最適化問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、経済の効率性と公平性のトレードオフの観点から、政府の望ましい税制や所得再分配や社会保障について理解を深めることである。その際、特に、所得の不平等だけでなく、資産の不平等にも注意した上で、理論的な分析を行うことに主眼がある。そのための準備として、昨年度から引き続き、エージェントの貯蓄をプリンシパルがモニターできない状況におけるプリンシパル・エージェント問題を考えた。この問題の困難さは、エージェントの効用最大化問題の1階の条件が十分条件とならないために、プリンシパルの最適化問題において、エージェントの誘引両立条件を1階の条件で置き換えられない点にある。それを解決するために、我々の研究では、連続時間モデルを考えるとともに、エージェントの効用最大化問題をダイナミック・プログラミングを用いて定式化した。ただし、エージェントの効用最大化問題はマルコフ性を満たさないため、標準的なダイナミックプログラミングの方法は使えない。そのため、本研究では、エージェントの効用最大化問題をStochastic Hamilton-Jacobi-Bellman方程式を用いて表した。その上で、契約の形態を一般性を損なわない形で限定すると、プリンシパルの最適化問題は、マルコフ性を持つ標準的な形に書き換えることができることを示した。これにより、最適契約問題を標準的な手法を使って分析することができるようになる。研究成果は "Tomoyuki Nakajima “Principal-agent problems with hidden savings in continuous time"にまとめ、いくつかの国際学会で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度に引き続き、エージェントが(隠れて)貯蓄できる環境におけるプリンシパル・エージェント問題について研究を進めた。この成果については、National University of Taiwan, 慶応大学、Econometric Society 2022 Australasia Meeting、2022 Asian Meeting of the Econometric Society in East and South-East Asiaで報告を行った。そこで得られたコメントなどを反映する形で、ワーキングペーパーを改訂し、Tomoyuki Nakajima “Principal-agent problems with hidden savings in continuous time"にまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、これまでの研究に基づき、私的情報のもとでの望ましい経済政策に関する理論的分析と、idiosyncratic riskのあるマクロ経済モデルを用いたよ り数量的な分析を勧めていく予定である。 例えば、以下のようなテーマを考えている: (1)貯蓄がモニター可能でない場合の保険提供の理論を最適な失業保険の提供の問題に応用すること、(2)民間による 保険提供がある経済において、社会保障に関して政府が果たすべき役割についての理論研究、(3)人的資本など政府によってモニター可能でないような資産蓄積 が可能な経済での最適な所得再分配政策、(4) 動学的なメカニズムデザイン問題の連続時間の最適制御問題のフレームワークにより分析すること、(5)労働者の moral hazardの問題がともなったlabor search modelでの最適なマクロ経済政策など。
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Causes of Carryover |
出席を計画していた国際学会がオンライン開催となったため、旅費の支出額が予定よりも少なくなったため。次年度以降、出張旅費として使用する予定。
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