2023 Fiscal Year Research-status Report
経済学はどのように海を渡ったか―幻のフィラデルフィア版『経済学原理』
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21K01410
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
古谷 豊 東北大学, 経済学研究科, 教授 (00374885)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 著作権 / アン法 / ステュアート / ミラー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は二つの課題を設定して研究を進めていった。第一はステュアート『経済学原理』のダブリン版がアメリカ植民地、とくにサウスカロライナにおいて受容された事情について、令和3年度以降の研究を踏まえて、チャールストン(サウスカロライナ)の知識人層とエディンバラ大学、とりわけその医学部を軸とするネットワークについて引き続き調査することだった。この課題については、令和4年度に明らかにできたことをさらに裏付け、確認することができた。 第二の課題は当時の出版事情についての調査である。令和3・4年度の研究が『原理』を購入・受容する側からの調査であったのに対して、その反対側の、出版・販売する側からの調査となる。基礎的な調査の後、小課題として1.法的事情(著作権等)、2.その他ビジネスの事情という座標軸と、1.ロンドン、2.フィラデルフィア、3.ダブリンそれぞれの出版・販売事情という座標軸で焦点となりうる領域を整理した。本研究課題にとってまず問題になりうる点は、フィラデルフィア版『原理』ないしダブリン版『原理』と、そのわずか三年前にロンドンで印刷された『原理』初版との利害対立であろう。これに関して当時はブリテンで著作権が確立していく途上期だった。1710年にStatute of Anne 1709と呼ばれ法が制定され、著作権が著者に14年(さらに14年延長)認められた。しかし著作権が失効していくにしたがって、さらなる期間延長を求めて争われていく。これは30年代から60年代にかけてBattle of the Booksellersという法廷闘争となり、一時的にコモンローに基づいた期限のない著作権が認められ、その後それが覆されていく。これが本研究課題にとって無視しえないのは、ステュアートの『経済学原理』初版の印刷権を買い取った出版社が、まさにその法廷闘争の当事者だったからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一方で、海外調査は当初の計画通りには進められていない。他方で、チャールストンとエディンバラの知的・文化的つながりをはじめとして、当初の計画以上に内容が広がり豊かになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度に進めたブリテンの著作権法についての調査からは、ステュアート『経済学原理』初版と直接結びつきうる論点が浮かび上がった。令和6年度はまずこの『原理』初版の出版業者A.ミラーの直鎖権をめぐる法廷闘争と、それがフィラデルフィア版ないしダブリン版『原理』の出版にどうかかわるかについて研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
研究初年度の海外調査の欠落が繰り越されている。その分を文献・資料の購入に充てる計画である。
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