2021 Fiscal Year Research-status Report
Leviathan in a commercial society: David Hume on commerce and sovereignty
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21K01413
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
森 直人 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (20467856)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヒューム / スコットランド啓蒙 / イングランド史 / 商業 / 主権 / 党派 / 専制 / 文明 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、思想家D. ヒュームの社会哲学・歴史叙述を「商業と主権の連環」という着眼によって総合的に解釈し、その思想史的な背景と意義を探究するものである。 本年度は、次の3つの作業を計画し、これを進捗のベンチマークとして設定していた。(1)商業と主権をめぐるヒュームの思考と、それに関わる18世紀および現代における文脈の予備的考察を行う。(2)『道徳・政治・文学論集』を中心としたヒュームの著作の受容史、特に日本での受容について検討する。(3)ヒュームの党派論と宗教論の関係について予備的検討を行う。 このうち(1)については、研究計画を前倒しし、補助事業期間の開始に先立って試論的な検討内容を所属機関の紀要に発表した(森直人「商業社会のリヴァイアサン:越境の時代の「自治」を考える糸口として」『国際社会文化研究』第21号、2020年12月、pp.77-107)。本来は期間の開始後に成果として発表すべきところかもしれないが、筆者にとって優先的に取りまとめる必要と意義のある内容と判断したため、先行して公表することとした。(2)については、関連文献の収集を行い、予備的な検討を行った。とりわけ、先行研究で指摘される福沢諭吉の間接的な重要性に鑑み、(ヒュームの直接的な受容者としてではなく、ヒューム受容の1つの知的文脈としての)福沢の思想の様相について試論的検討を行っている。(3)については、ヒュームの党派論と宗教論をめぐる先行研究を参照してその通説的理解を把握し、そこに独自の解釈を加えるための予備的考察を行った。 なお、ヒュームの党派論と宗教論に関わる検討の一環として、コンヴェンションと党派をめぐるヒュームの認識についてこれまで行なってきた研究について(課題番号16K03574と関係)、いくつかの最新の先行研究の知見を加味して内容を改訂し、国内学会にて発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の(1)から(3)をベンチマークとして評価するならば、本年度の進捗状況はやや遅れている。一方で、(1)については先行して既に成果を発表しており、この点では予定より早く研究は進捗している。また(2)(3)についても、本年度は検討・予備的検討の段階であり、成果の公表等は次年度以降に予定されているため、必ずしも大きく遅れているとは言えない。しかし他方で、当初の予定では『論集』を中心とするヒュームの議論の日本での受容のあり方について、具体的にヒュームに言及する文献を直接検討する予定であったところ、2021年度はそうした文献の収集にとどまった。また、ヒュームの宗教論と党派論について、両者の関係をめぐる先行研究を、最新のものだけでなくより古典的なものまで幅広く検討する予定だったところ、それには至らなかった。 以上を総合すれば、研究の進捗はやや遅れていると評価できる。その最大の理由は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う各種の業務負担の増大である。課題番号16K03574の実施状況報告書でも以下について同様の記述を行なっているが、2021年度においては各種業務について対面・オンライン両面での準備や実施を余儀なくされ、それにより教育・運営・学生対応等の通常以上の負荷を生じることとなった。こうした負荷が研究の制約となり、予定通りの研究を進めることができなかったことが、遅れの要因である。
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Strategy for Future Research Activity |
以上に記したように、研究の進捗はやや遅れているが、とはいえ現在のところ当初の研究計画から大きく逸脱している訳ではない。したがって、当初の計画に記載の通りに研究を進めてゆくことが、今後の基本的な研究の推進方策となる。具体的には、2022年度において、(1)『論集』受容の検討を継続して、日本におけるより具体的な受容の様相について考察を加えて、学会発表を行い論考にまとめることを目指す。これとともに、(2)党派論と宗教論に関して、先行研究およびヒュームのテクストについて検討を重ねつつ、さらに同時代のキリスト教道徳をめぐる議論についても先行研究に従って検討を加えたい。 ただし、課題番号16K03574の実施状況報告書にも記載した通り、2022年度以降、所属機関における運営業務負担が大きく増大し、また所属学会での業務も相当程度増加することが予測されている。こうした運営の業務負担の増大に加え、他に進行中の科研のプロジェクトとのバランスも保たなければならない。そのような状況で、予定通りに研究を進め、特に成果を発信することには多大な困難が予想される。 そのため、速やかに成果を発信することが困難となる状況に至った場合は、研究を通じて得られた知見を当初予定していたよりも試論的な形で、例えば研究ノート等の形で発信することも選択肢として視野に入れておきたい。
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Causes of Carryover |
より効果的な研究費の活用のため、次年度使用額が発生した。2021年度も、引き続き旅費使用などが困難な状況にあったため、研究に必要な資料の購入などを中心に研究費を支出した。年度末に少額の残額が生じたが、これについて必要性の低い残額消化を行うよりも、次年度に繰り越してより必要性の高い資料の購入等に支出した方が効果的であると考え、この残額を次年度に繰り越すこととした。2022年度に、当該年度の図書購入費と併せて、引き続き資料の購入に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)