2021 Fiscal Year Research-status Report
産業と雇用形態の異質性を考慮した賃金の上方硬直性に関する実証分析
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21K01463
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
薗田 竜之介 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (90720201)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 賃金の上方硬直性 / 二重労働市場 / 産業間の異質性 / 所得分配 / 需要形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、賃金と需要が相互に影響を及ぼしあいながら変動するマクロ動学モデルを構築し、それに基づいた日本経済の実証分析を行うことにより、近年の日本において解明が喫緊の課題となっている「賃金の上方硬直性」の要因について、より精緻な説明を与えることである。 本研究では、「産業の異質性」と「雇用形態の異質性」の2点に着目し、以下のような複合的な要因によって賃金の上方硬直性がもたらされているという仮説を立て、これを検証する。まず製造業部門においては,多くの貿易財が含まれることから,国際価格競争の圧力が強く作用しており、そこに雇用維持を優先して賃上げ要求を控えがちな日本の企業別労働組合の特質が合わさることによって、賃金の停滞がもたらされた可能性がある。一方、サービス業部門においては、外部労働市場の動向に賃金が強く反応する非正規雇用者の比率が高く、日本全体の賃金停滞と国内市場における需要の伸び悩みによって、賃金水準への抑制が働いたのではないかと考えられる。これを実証するために、産業別・雇用形態別の賃金水準と需要形成とが相互作用する動学モデルを構築し、各変数の時系列データを用いて、推計を行う計画となっている。 研究期間1年目となる2021年度には、日本の賃金動向に関する先行研究のサーベイ、およびマクロ動学モデルや時系列分析の手法の習得を行った。その上で、本研究で推計に用いるマクロ動学モデルの構築作業と、適切な推計手法に関する検討作業を進めた。また並行して、推計に使用する産業別・雇用形態別の賃金水準、および産出関連のデータを収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間1年目となる2021年度には、(1)日本の賃金動向に関する先行研究のサーベイ、(2)マクロ動学モデルや時系列分析の手法の習得、(3)マクロ動学モデルの構築作業、(4)適切な推計手法に関する検討作業、(5)推計に使用するデータの収集、を行った。 (1)については科研費による図書購入などを通じて、関連テーマに関する先行研究のサーベイを一通り行い、最終的な論文において背景説明として記述することになる文章をまとめることができた。(2)についても科研費による図書購入などを通じて、実証作業を行っていく上で必要なマクロ動学や時系列分析の知識を習得することができた。(3)については、産業別・雇用形態別の賃金水準と経済全体の需要水準とが相互作用する動学モデルを構築したが、2年目に実際に推計していく上で修正の必要が生じた場合には、再構築することも視野に入れている。(4)についても、最初に取り組む推計手法を決定することができたが、推計が上手く進まなかった場合には、再検討する可能性がある。(5)についても、日本において賃金の上方硬直性が表面化した1990年代以降について、製造業・サービス業の産業別の賃金データ、正規雇用者と非正規雇用者の雇用形態別の賃金データ、需要の動向の指標となる産出―資本比率を導出するための産出および資本ストック量のデータを、それぞれ収集した。 実際の推計作業に進むことはできなかったため、学会・研究会での研究報告や論文執筆はまだ行えていないが、当初の研究計画に照らして、1年目の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間2年目となる2022年度は、1年目に構築したマクロ動学モデルをベースとして、産業別・雇用形態別の賃金水準と需要形成との間の相互作用について、時系列データを用いた実証分析に取り組む。満足な推計結果が得られないなど、実証に当たって問題が発生した場合には、近接分野の研究者からのアドバイスも積極的に受けながら、マクロ動学モデルや推計手法を再検討していく予定である。 また、一定の分析結果が得られ次第、それをまとめたものを、所属する学会や研究会で発表し、他の研究者からのフィードバックを受けて、内容をさらにブラッシュアップしていく。2021年度はコロナ禍により、学会・研究会の多くがオンライン開催となってしまい、他の研究者と対面で交流する機会をなかなか設けることができなかったが、2022年度は対面での学会・研究会開催も増えていくと考えられるため、科研費を利用して積極的に出張・参加し、多くの研究者から有益な助言を得て、研究課題の推進につなげていきたい。 2022年度中に、一定の分析結果をまとめることができれば、国際査読誌への投稿を視野に、英語論文の執筆へと着手する予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナ禍により、多くの学会・研究会がオンライン開催となり、旅費の支出が予定よりもかなり少なくなった。2022年度は対面で開催される学会・研究会が増えることが予想されるため、その旅費として次年度使用額を用いる予定である。
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